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呼んで
たたっと軽い足音がして、岩場の上にサファテがきた。
大きな体の割に身が軽いのは職業柄かな。
そのまま胸の中に抱き込まれる。
すっぽり収まってるけど、それほどオレが小柄だってわけじゃないと思うんだ。
こっち世界基準じゃ小柄かもしれないけど、オレの身長、元の世界基準だと平均ちょい上くらいだからな。
「サファテ」
「ルウ……どこか、痛みはないか?」
「ちょっとだけひりひりしているけど、大丈夫。水に投げてくれて、ありがと」
手遅れになったらもっと酸で焼けていただろう。
魔獣のじゃなくたって、消化液は強酸だ。
止めを刺せたかどうか確認するよりも前に、あのタイミングで貯水池に投げ込まれたから、この程度で済んでるってことくらいすぐにわかる。
「あと少しで撤収準備が終わる。それまで休んどけ」
大事なものを確かめています、と、オレにさえもそうわかる手つきで、オレの体のあちこちを確認していく優しい男。
撤収準備と聞いて、今日の仕事を思い出す。
チクリと、ひっかかった違和感。
それはさておき、オレはサファテに訴える。
「なあ、オレこのままいるの? この格好で?」
「お前の服は、もう一度着られる状態じゃないぞ」
振り切るように両手を広げてマッパなのを主張したら、ものすごい顔で布の中に包みなおされた。
服がないのは仕方なくても、肌を露出するのはいかんらしい。
優しい男の変な顔。
やきもち焼いている様子は、今では可愛いとさえ思う。
とはいっても、日向にいるのに布できっちりくるまれても、暑い。
てい、とサファテの手を払って、貫頭衣っぽい感じで布を体に巻きなおして、端を痛くない方の肩で結んだ。
「マジ? 刀は?」
「装備は俺が預かっている」
「そか。サンキュな」
うまくいかなくてオレが固結びにした結び目を、器用になおしながら、サファテはオレを離そうとしない。
うつむき加減で顔を隠そうとしたって無駄だ。
悔しいけどオレの方が小柄なんだから、のぞき込めばお前の顔なんて、すぐに見えるんだよ。
「サファテ?」
手をのばして顔を挟み込んだ。
その瞳の奥で、怖かったんだという訴えを見つけて、困惑する。
「……すまん、お前に傷をつけた」
「かすり傷だ」
「それでもだ。お前を止められなかった……間に合わないかと思った……」
ぎゅうと抱きしめられて、体も痛かったけど、それよりも胸の奥が痛くなった。
「サファテ」
「お前の戦い方は、見ていて怖い。何度も言っているだろう? 俺はお前を失いたくないんだ。ずっと一緒に生きていたいんだよ」
「うん……ごめん。気をつける」
「頼ってくれ。ずっと一緒にいられるように、考えてくれ」
抱きしめたまま小さな声で訴えるのを、苦く思った。
これじゃ抱きしめられてるっていうより、しがみつかれているみたいだ。
サファテはオレを大事にしてくれる。
だからこそ、時にびっくりするほど過保護になって、目の届くところにおきたがる。
オレがここに来た時のように、またどこかへ行ってしまうのではないかと、思うらしい。
「ルウ」
オレだけどオレの名前じゃない呼び名。
それでも。
「呼んで」
「ルウ?」
「お前に呼ばれるの、好き。だから、いっぱい呼んで」
抱きついて抱きしめられて。
細かいことなんてどうでもいい。
ただぎゅうっとその体に腕を回した。
「オレを、呼んで」
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