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背中でゆらゆら揺られて
大きな背中。
オレはこんなに甘えただったろうか。
世界を渡って数え方がよくわからなくなっているけど、元の世界ではもう成人していたのに、と気恥ずかしく思う。
だけど現状オレは、撤収の行軍で当たり前のようにオレを背負うサファテに甘えていて、運ばれながらその大きな背中で半分うつらうつらとしている。
子どものころでも、記憶にある限りこんな無防備に背負われたことなんてない。
家の親父は仕事人間で家にいることが少なかったし、母親はそんなに体が大きくなかったし、妹がいた。
大事にされなかったわけじゃなくて、ただ、そうだったっていうだけ。
「寝ていてもいいぞ」
笑いを含んだサファテの声。
「ん……重くね?」
「どこが? お前はもう少し肉をつけてもいいと思う」
「そうかな」
「どんなお前でもいいんだが、もう少し頑丈になってくれないと、壊しそうで怖い」
「そんな簡単に壊れねえよ。それにオレ、だいぶ太った……ていうか、胴回りも肩幅も、増えた」
「こんなに細くてか?」
「昨日、こっちに来た時の服が出てきて……着れなくなってた。オレが育ってた」
「それは何よりだ。その調子でしっかり育ってくれ」
オレを背負っていても、サファテは隊列から遅れることなくついていく。
まあ、先頭じゃなくて負傷者と面倒見てるやつが固まってるほぼ最後尾なんだけどさ、それでも特に苦労している様子がないのが、すごいなと思う。
「なあ、これ、帰ったら、トバにも叱られるよな」
「間違いなく」
ふと思いついて問うたら、ものすごくあっさりと答えが返ってきた。
サファテも過保護だけどトバも過保護だ。
大きな傷はなくても、服をだめにしてサファテに背負われて帰ったら、それこそしばらく冒険者の仕事はできないかもしれない。
「じゃあ、一緒に叱られてくれ。そんで、トバがしつこかったらオレ家出すっから、サファテのとこ泊めて」
「ルウがオレの家に来てくれるのはうれしいが、家出はやめておけ」
「えええ~」
「一緒に叱られてやるから」
優しい優しい声で、サファテがいった。
「トバは口うるさいけど、お前の大事な家族だろ」
「……ああ、そっか……うん、そうだな」
ちくりと、また、違和感がうずく。
でもその通りなんだ。
トバは、オレの家族。
ゆらゆらとサファテの背に揺られて、気持ちよくて、瞼が下りてくる。
「ルウ?」
「サファテ、今度スイカ割りしよう」
「スイカ割り??」
「そう。夏の、キャンプの時の定番のゲーム……スイカ、こっちではないかな……トバに、代わりになる果物教えてもらってさ……」
あ。
わかった。
わかってしまった。
さっきからちりちりと胸を焼く違和感の原因。
オレ、だ。
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