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トバの腕の中
「嘘っマジで?!」
跳ね起きてそういったら、ぺちん、と顔を覆うようにトバにはたかれた。
「狸寝入り」
「ちげえし! 気持ちく寝てたら、トバが!」
そうだろうなといいながら、トバがふふふと笑う。
どういうことだと追求したいのに、トバがオレの頬をもみもみともみはじめるから、オレが文句をいっても何をいってるのかわからなくなる。
「トバ」
サファテが助け舟を出してくれた。
「うるせえよ。俺はお前にも思うところがあるって言ってんだろうが。……アリューヒ」
「うん」
トバはオレの名前を呼ぼうとして、いつも正しくない発音になる。
オレのホントの名前は、トバには難しいらしい。
サファテにとっても難しいらしいから、こっちの人には発音しにくい名前なんだろう。
「落ちていたお前を拾ったのは、そういう理由……俺の育ての親と同郷だと思ったからだ。だから、戸惑うお前が予想できたし、ゆっくり考えればいいといった。好きにすればいいともいった。お前はそれなりに考えて、ここに根を張った。そうだな?」
「……うん」
「後悔しているか?」
ゆっくりと問われて、考えた。
後悔?
トバの顔を見て、サファテの顔を見た。
オレは、気に入っていたシャツが着れなくなるくらいに、体つきが変わった。
自分の手で命を摘むことに、罪悪感を持たなくなった。
あの頃のオレとは、全然違くなってしまって、もう、帰るのは気持ちが無理だって思っている。
だけど、後悔?
「違う。トバ。後悔じゃない」
「そうか」
よしよしとオレを撫でてトバが笑った。
笑ってオレを抱き寄せて、サファテに聞こえないように耳元で囁いた。
「ところで確認するが、お前、まだ処女なのか?」
ギャー!
なんてことを!
なんてことを聞くんだあんたは!
なあ、普通聞くか?!
答えるか?!
あんた保護者だろ?!
オレの保護者だろ?!
そんな、しょ、しょ、処女とかっ
抱きしめられたままトバの背中をベチベチと叩いたら、わかったわかったと笑って解放された。
すっげムカつく!
何それ!
腹立つんですけどっ
「サファテ」
「はい」
「大事にするのもいいが、いい加減腹くくってくれや。お前がへたれてっから、こいつが不安がる」
「それは……」
「俺はそろそろ動きてえんだ」
トバが拾ってくれたから、オレはトバと一緒にいる。
もしもトバが旅に出るといったら、サファテのことを思って迷うけど、一緒についていくだろう。
「こいつに庇護欲掻き立てられてかわいいと思っているのは、お前だけじゃねえんだよ、サファテ?」
「知ってる」
「俺はお前を認めている。お前がこいつを大事にしているのを、ありがたいとも思う。こいつに目をつけてるやつらは、俺やお前に牽制されて、こいつに無体はしないだろ。だけど、それだけじゃねえか」
顔だけ笑ってるトバ。
怖いよ?
目が笑ってないよ?
そのトバに射竦められて、サファテが椅子の上で固まった。
「そろそろ、男みせてくれや」
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