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第3話

「こんなすぐ、ちゃんとしたとこで寝られると思ってなかったな……暫く野宿する覚悟もしてたってのに……マジ良かった、助かった」 使っていいという部屋に通され、士乃はそこにあるベッドに寝転がり、ホッとしながら呟いた。 ゲストルームなのだろう、ホテルと同じように部屋の内部にバスルームがしつらえてある。 ――こんな良い部屋で寝られて宿泊費の心配も無いなんてありがてー。矢代に連絡してみて良かった。絵のモデルってなにやんだかしんないけど……脱げとか言われてもこの待遇なら別にいいや。 整ったベッドにかけてあるカバーは清潔で――銭湯の近くを通ると漂ってくる石鹸のような――いい匂いがした。枕からも同じ匂いがする。顔を押し付けてその香りを吸い込みながら士乃はぼんやりと、一昨日まで一緒に住んでいた吉塚と言う男の事を思い出した。 ――お前の取り柄はカオとカラダだけだからなあ―― 吉塚は士乃にたびたびそう言った。 彼が士乃と付き合い部屋に置いてくれていたのは――愛情があったからではなく、性行為だけが目当てという事は最初からわかっていた――だから、あんなふうに言われたからって、べつに傷つく必要なんかない。自分にしたって住むとこさえ提供してくれれば相手は誰でも良かったんだから、似たようなもんだ――士乃はそう思うようにしていた。しかし――それが自分の本心なのかどうなのかは――よくわからなかった。 その吉塚が、映像を目にしてしまい――他の男のアレを嬉しそうにしゃぶってたような薄汚れた奴とは、もう寝る気になれねえんだよ、ときつく言い放って士乃をアパートから叩き出したのだ。 自分の性行為の映像がどこかで出回っているという事は知り合いに教えられて士乃も以前から知っていた――しかしだからといって、どうしたらいいのか士乃には全くわからなかったので、仕方なく放っておいたのだ。 ――いくら頼まれたからってあんなものをおとなしく撮らせた自分が馬鹿だったとは思うが、吉塚だって、自分が士乃の初めての相手ではないという事は分かりきっていたはずだ。今更、他の男と寝ていたからと言う理由で追い出すのはおかしな話ではないか?映像に残っていようがいまいが、同じ事なのに……士乃は内心そう思ったが、激昂している吉塚の前では怖くて何も言えず、黙ってそのままアパートを出てきたのだった。 ……吉塚にあの映像の存在を教えたのが誰かはわかっている――士乃は溜め息をついて寝返りをうった。 もういいや。どうせ――吉塚さんとだって長続きしないのはわかってた。いつもの事だ。 そう心の中で呟くと、士乃は柔らかいベッドに体を埋め、目を閉じた。

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