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第4話

翌日――カーテンを閉め忘れた窓から差し込む陽の光で目覚めた士乃は、何時なのかわからないままごそごそとベッドの上に起き上がった。ぼうっと考える……ええと、どこだっけ?ここ……?そして漸く、そうだ、俺、画家のセンセイに雇われたんだ、と思い出した。 ナイトテーブルの上に置き時計があった――朝7時を少し回ったところだ。空腹を覚えて士乃は、ベッドから這い出てシャワーを浴びると部屋を出た。 とりあえず矢代を探そうと歩き回っていたら、昨日通ったギャラリーのようになっている長い廊下へ出た。 そこに掛けられている絵をあらためて眺める――個人の家じゃなく、美術館にいるみたいだ―― 絵の事など全然わからないが、飾られているのはどれもとても綺麗だと思った。士乃は自分でも気づかないうちに夢中になり、端から絵を一つ一つ丁寧に見なおした。 やがて、見覚えのある花の絵を見つけた。これは確か、雑誌――週刊誌の表紙に載っていた絵だ。ということは、滝井はかなり有名な画家なのだろうか?気付けばその周囲に掛かっている絵はどれも――雑誌や本の表紙、カレンダーなどの印刷物で見た事のある物だった。ここの先生が描いてたんだ―― それなら謝礼は結構もらえるかもしれない、という期待と、でもそんなに売れてる人が本気で自分なんかをモデルにするつもりなんだろうか?という疑いが混ざりあってややこしい気分になり、士乃は絵の前に立ち止まって両腕を組むと、しかめっ面で考え込んだ。 ふいに、廊下の先から話し声が低く伝わってきて――士乃はハッとしてそちらに顔を向けた。 きちんと背広を着込んだ矢代と、品の良い初老の男性が廊下を折れてこちらに歩いてくる――矢代が、その場に突っ立って二人を見ている士乃に気付いて声を掛けてきた。 「おはよう。お腹すいたでしょう。そこを曲がった所の部屋に朝食の支度がしてありますから、ご自由にどうぞ」 「あ。ど、どうも……」 士乃は慌てて二人に会釈しながら歩き出し、矢代が指さした方へ足早に向かった。 背後でさっきの初老の男性が 「彼は――今度のモデルかね?」 と矢代に尋ねている。 「そうです」 「あの子でもし――先生の新作が出るようなら、ぜひ買いたいね」 その会話を聞いて士乃は、なんだか奇妙な心持ちがした――だが、それがなぜなのかはよくわからなかった。

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