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第12話 高校時代 -5-

岩内は、士乃が男に身体を売っているだけでなく、普段からどんなに反抗的で性質の悪い生徒だったかということを学校や士乃の両親につぶさに報告したらしい。事実でもない事をよくそんなに詳しくでっち上げられるものだと士乃は内心呆れたのだが、今更どうでもいい気がして、何も言い訳しなかった。 学校をやめさせられて家に閉じこもっていた士乃に、後藤は電話をかけてきた。そして、力のない声で、士乃に何度も謝った。 「――すまなかった。ごめん――どうして――ちゃんとほんとのこと話して――庇ってやれなかったんだろう――」 士乃の事で後藤は後悔し、憔悴しきっている――先生、可哀想に…… 「庇ったって無駄だったよ。俺、問題児だからさ。そんなことしたら後藤先生も一緒にやめさせられて終わりだったと思う。それじゃあ岩内喜ばすだけで悔しいじゃん、だからさ、これで良かったんだよ」 「良くなんか……それにお前は問題児なんかじゃない、俺が――。俺は……ずるいんだ。保身のために……士乃、お前を見捨てた……」 「いいんだって。勉強もともと嫌いだったし、高校なんか行かなくても平気だから」 「俺が悪かったんだ――俺が、あんな風にお前を抱いたりしなけりゃ――こんな事には――」 「誘ったの俺だもん。先生のせいじゃない」 気にしていないと士乃がいくら言っても後藤は詫び続けた――士乃の存在を身近に感じている限り、後藤は、彼自身を責め続ける事になるのだろう……そんなのは嫌だ――そう思って士乃はそれ以上後藤と接触するのを止め、気を紛らわすため外を出歩くようにした。 両親はなぜか、退学させられた士乃を厳しく叱りつけるようなことはしなかった。しかし代わりに、先行きの定まらない息子のことで頻繁に諍うようになった。互いに相手を非難し、傷つけ合っている――そんな両親の不和と、士乃が同性と寝ていたと知って以来、腫れ物を触るように自分を扱う彼らの態度がとても辛く――士乃は家に居辛くなった。 家出した訳ではなかったのだが、息子が不在がちになっても、その事を両親が気にかける様子は無かったから――うちにいる時間より街をうろつく時間の方が徐々に伸びていき――士乃は結局、帰らなくなった。 そうして士乃は、繁華街で同じようにぶらついている連中と自然とつるむようになり、昼夜問わず遊び回るようになった――学校では敬遠される要因になっていたらしい士乃の目立つ容姿は、こういう環境では有利に働くらしく、似たような雰囲気の若者が気軽に声をかけてくる――そんな彼らの真似をして、士乃は、学校では黒く染めていた頭髪を元よりも明るい色に脱色し、勧められるままピアスを複数あけたり、小さなタトゥーを入れてみたりした。 街にいれば寂しくはない―― 後藤と経験があったためなのか、それとも士乃の持つ雰囲気から何かを感じ取るからなのか――性的な興味を持たれて同性に声をかけられることも多かった。その相手が気に入れば――大概年上で、士乃から見て大人に思えるタイプの男性だった――誘われるまま士乃はホテルへでもついて行った。 金が稼げるという理由もあったが、そういう男たちの中に士乃は常に――後藤の面影を探していたのかもしれない。皆彼とは違うということは ――わかりきっていたのだが―― いつの間にか士乃は、岩内がでっちあげて吹聴した人間のようになってしまっていた――派手で、いい加減で、尻軽で――本当は、こんな風でいる事なんて望んでいない……だが士乃は、その気持にきつく蓋をして目を背け、自分は元からそういう人間なのだと思い振る舞うようにした――そう、これが自分だ。だから家にも後藤にも――近づく資格なんかない――

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