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第19話

滝井は、士乃の相手をする正岡(まさおか)というモデルをアトリエに呼び寄せた。正岡は滝井より若いが、背格好が滝井に瓜二つだった。 正岡は以前から何度もここでの仕事を受けているらしく、アトリエに現れると慣れた様子で滝井の前で服を脱ぎはじめ、さっさと裸になってしまった。 正岡は、アトリエの隅で戸惑って立ち尽くしていた士乃に手招きして自分の側へ来させると、いきなり、士乃が着ているバスローブの帯紐を解いて脱がせようとした――下は素裸だった士乃が思わず身を退くと、正岡は士乃の腰を荒っぽくぐいと掴まえて自分の方に引き寄せ、囁いた。 「びびってないでさっさと脱げよ……ロマンチックなラブシーンやりに来てんじゃないんだから。ただの絵のモデルだろ?」 それもそうか――士乃は思い、逃げるのを止めて肩にひっかかっていたバスローブを自ら脱ぎ落とした。 滝井の指示で――正岡が、光沢のある布が敷かれた床の上で士乃を組み敷き、喉笛に齧りつく――士乃は頭を反らせて小さく呻いた。次いで正岡の手が士乃の腿を這い……脚の間に潜り込んでくる。 滝井は脇に立って正岡の動きに指示を出しながら、クロッキー帳を抱え、床の上で身体を絡ませる二人の姿を熱心に写し取っていた――士乃は正岡の下で唇を吸われながら、絵に集中する滝井の顔だけを見ていた。 「冷めてんのな、士乃は」 正岡は、初対面のくせにやけに馴れ馴れしく、士乃を名前で呼び捨てにした。 今は休憩中で、バスローブを羽織って二人はアトリエの床に座り込み、矢代が淹れて来たコーヒーを飲んでいた。滝井はいない。 「冷めてる?そうかな……」 コーヒーカップを掌で包んで、士乃はぼんやりと答えた。 「ああ。スケベそうな顔してる割にちっともその気にならないじゃないか。俺は結構……やばかったのによ」 「やばかったって……なにが?」 正岡は苦笑した。 「それ聞くかあ?だから……何度か先にイきそうになっちまった、っての!」 「イけばよかったじゃん……先生、駄目だなんて言ってなかったし」 彼は啜っていたコーヒーを床に置き、頭を掻いた。 「なんだよ冷たいな……調子狂うぜ。先生がここへ連れてきた今までのモデル連中はさあ、スキモノばっかで楽しめたから、今回も期待してたのによお……」 正岡のその言葉に、士乃は思わず興味をひかれた。 「今までのモデル?それって、どんな人達だった?」 「どんな、って……まあ、みんな顔は可愛かったし、身体も綺麗だったよ?士乃と同じにな。でも士乃みたいに上の空じゃなくて、感度良かったぜ……?」 皮肉っぽく呟きながら、正岡は士乃の持っていたカップを取り上げ自分のと同じく床に置いた。片手で士乃の頭を掴み、空いた手で自分のローブの前をはだける。 「なあ?俺の……結構デカいだろ?他の連中は……すぐむしゃぶりついたぜ……」 そうして士乃の頭を、自分のそこに押し付けようとした。 「ちょっと!」 士乃は抵抗し、正岡の手を掴んで外させた。 「ケチるなよぉ……いいじゃねえか。どうせすぐまたやるんだからさ、しゃぶってくれよ……」 「ふざけんな!俺はあんたにそんな事してやるためにここにいる訳じゃないんだぞ!?先生のためにやってるんだからな!」 「あーあもう。気取っちゃってえ。先生のためって……まさか士乃は、先生に惚れてんのか?けどお前、先生の素顔見たことあんの?まるで、ホラー映画に出てくるみてえな……」 「失礼な事言うなよッ!」 顔色を変えて叫んだ士乃を見て、正岡は笑った。 「やめとけやめとけ。あの人さあ、ガタイ良くても不能らしいぜ?だからこんな辺鄙なとこで危ない絵描いてんだよ」 「そ……いい加減な事言うな!」 「いや?だって聞いたもん」 「誰に!」 「士乃の前に、ここにいたモデル」 士乃は一瞬言葉に詰まった。 「まああの子も士乃と同じで物好きっつーか……先生の持ってる金が目当てだったんだろうけど……熱心にせまって、ベッドに押し倒させるまでは行ったらしいよ?でも結局、駄目だったってさ」 士乃は正岡に背を向け両膝を抱えこむと、そこへ顔を伏せた。あの先生が……ベッドに押し倒しただって?一体……どんな人だったんだろうか…… 「おい、なんだよ?なに落ち込んでるんだ?」 「なんでもねーよ!」 むっとしながらそう答えた。なぜか無性に腹が立つ。 「先生が不能だったってのがショックなら、俺がいくらでも代わりに慰めてやるから気にすんなよ。あの子もさぁ、先生にゃ満足させてもらえなくて、その足ですぐ俺のとこに来たんだから……」 「止めろよ」 士乃は冷たい声で言った。止めろ。先生のことを、そんな風に安っぽく扱うな。 暫くして滝井が戻って来た。士乃は再び指示されて、ローブを脱ぎ、椅子に腰掛けている正岡の膝の上に座った――背後から抱えられたので、イーゼルの前に座る滝井と向かい合う形になった。 滝井が小さく顎を動かして言う。 「士乃、足を開け」 士乃は一瞬迷って俯いたが、すぐ顔を上げ、指示に従って脚を開いた。 先生。こうすれば俺を――見てくれるのかな。 士乃は心の中で問いかけた――滝井の表情は変わらず、サングラスに遮られて彼の視線がどこにあるかはわからない―― 俺の身体、どう思う?先生を誘惑したっていう人のと……どっちが良いかな? その時、自分の脚の間を――何かがすっと撫でたような感覚があった。思わずそこへ目をやったが何もない――士乃は滝井の顔を見た。 ……先生? その感覚が本物だったのかどうか確かめようと――士乃は背後の正岡にもたれかかってさらに足を大きく開き、腰を滝井の方へと差し出してみた。 先生――今のは、先生だった? 「ん……」 ――士乃は滝井の視線の感触を――今度ははっきりと肌の上に感じ、声を漏らして身体を震わせた。 これ……触られてるんじゃない。 ……見られてるんだ。 ただの気の所為かもしれない。滝井に自分を見て欲しいと願ったあまりの幻かも。でも―― やや熱を帯びた滝井のその視線は……士乃の身体の上を蛇のように、自在に這い回りはじめた。それはやがて、太腿をなぞって士乃の中心に辿り着き――じわりとそこに絡みついてきてきゅっと締め上げた――呼吸が速くなる。 「あ、は……ハッ」 気の所為じゃない。先生は――直接触ったりなどしなくても――俺に感じさせることができる人なんだ―― 抑えが効かなくなり、士乃は正岡の膝の上で身体を反らせ、唇を開けて喘ぎはじめてしまった――士乃の変化に気づいた正岡が不審げな顔をし、小声で尋ねる。 「おい、士乃?なんだよ、どうしたんだよ?」 士乃は首を彼の方へ捻じ向けると唇を吸った。戸惑いながら正岡は口付けを返してきた――舌を絡ませた後、士乃は向きを変えて正岡の膝の上に跨って彼に縋り付くと、腰を捏ねるようにして性器同士を擦り合わせた。 先生、お願いだよ、もう、欲しい…… 「正岡、勃ってるか?」 滝井が低く尋ねた。 「え!?は、はあ、まあ……」 「勃ってるなら挿れてやれ……士乃が、欲しがってる」 滝井は言いながらクロッキー帳を手に立ち上がり、二人に近づいた。正岡に抱きついている士乃の髪を掴んで仰向かせる――滝井の顔を見上げた士乃を、そのまま髪を引いて正岡の膝から下ろし、足元に這いつくばらせて頭を床へ押し付けた。 「そのまま待て――」 滝井は正岡に指示した。 「潤滑剤を」 「あ、は……はい」 士乃の尻が押し開かれ、そこに、潤滑剤をつけた正岡の指が挿しこまれてきた。 「う……あっ!」 そのまま何度も抜き差しされる。滝井は、士乃の上半身を床に押さえながら、正岡の指に慣らされていくそこを覗き込んでいるらしい。 先生に……見られてる。自分が感じているのが羞恥なのか高揚なのか……よくわからないまま、士乃は床の上で声を上げ、悶えた。 「あ、あう!あっ、あ!」 「正岡、どうだ?」 「大分……柔らかくなってます」 「士乃。いいか?」 滝井が、喘がされている士乃に尋ねた。 「あ、はっ……う、うん……」 士乃は虚ろな視線で滝井の顔を見返しながら、小さく頷いた。 指が引き抜かれる。 「正岡、士乃の腕を後ろへ取れ……そう。それで……」 滝井は二人の位置と、体位を指示した。 「いいだろう……よし、挿れろ」 「アッ!」 滝井の合図と同時に後ろから深く貫かれ、士乃は声を上げて仰け反った。 正岡に突き入れられるごとに激しく反応する士乃を、滝井は傍らに立ってスケッチしながら見下ろしていた――そして士乃は――そうやって犯されている様を滝井に観察されることに――なぜだか悦びを覚えていた。 「ちょっと……どうしちゃったのよ。急にすごかったじゃん……」 滝井に、今日は終わりだと告げられてから、正岡が士乃に寄ってきて囁いた。 「前半あんなに冷めてたのに……すげえ良かったぜ?なあ、士乃も俺の、良かったんだろ?随分感じてたものな、あんなに声出しちゃってよ」 目を伏せて士乃は微笑した。……ごめん。ほんとは――正岡さんに感じさせられてたんじゃなかったんだよ。先生が描きたいと望む光景を、自分が見せてあげられる事、それが嬉しかっただけ――アトリエでああしている間は、士乃は滝井のもので――彼の世界の一部でいられるとわかったから。 「あのさ、後で俺の部屋来ない?それとも……俺車で来てるから、どっかドライブ連れてってやろうか?」 士乃は正岡を見上げた。彼の顔を暫し見つめ、背伸びして頬に軽く口付けた。 「ありがとう……でも、今日は……疲れたから……」 「そ、そっか。じゃあまた明日、アトリエで、な?」 「うん。明日」 明日再び――士乃は滝井のものになる――

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