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第24話
結婚式とそれに伴う諸事が終わり、新婚旅行へ発つ矢代夫婦を見送ってから、士乃と滝井は自分達が宿泊するホテルへ向かった。
二人を乗せたハイヤーは、やがて士乃が遊び場にしている繁華街の入り口へ差し掛かった――友人たちとの溜まり場になっている店が一つ、ここから程近い所にある。滝井に頼んでハイヤーを歩道に寄せて止めてもらい、士乃だけ車を降りた。
「一人で大丈夫か?」
車の中から滝井が声を掛けた。士乃は道の向かい側を指し示しながら答えた。
「うん、大丈夫。あっちにある馴染みの店に顔出して知り合いに挨拶したら、すぐ戻る。先生は先にホテルへ行ってていいよ。俺地下鉄で追っかけるから」
「いや。ここで待ってる」
「そう?じゃあ……十分だけ。いい?」
「ああ。気をつけろ」
「うん」
道路を渡って雑居ビルが両側に立ち並ぶ脇道へ入り、溜まり場の店を覗くと、中にいた友人が目ざとく士乃を見つけて声をかけてきた。他の遊び仲間達も、スーツ姿の士乃を珍しがって集まってきた。
知った顔を大体確認し終わってから、すぐ店を出て、士乃は滝井が待つハイヤーのいる大通りへ戻ろうとした。するといきなり――目の前に立ち塞がる人影がある。見るとそれは……岩内だった。
この男が何故ここに?一瞬あまりにも驚いて、士乃は幻覚を見ているのかとも考えた。
「初見。久しぶりだな」
「なんで……」
「お前が今ここにいるのがわかったか、って?」
岩内は顔を歪めて笑った。
「お前の友人のうち何人かに金を掴ませてるんだ。初見がこの辺りに舞い戻ったら、すぐ俺に連絡するように、ってな」
士乃は息を飲んだ。今まで岩内が士乃の動向を、大まかにではあったが妙に把握しているのが不思議でならなかったのだ。だが、友人の中に、岩内に情報を流していた者がいたのなら――納得がいく。
「はした金で簡単に操れるんだから……つくづく軽いな、お前の友人は。馬鹿ばっかりだ――」
蔑んだように言いながら、岩内は士乃を捉えようと手を伸ばしてきた。
「だがお前はここんとこ、ちょいちょい行方不明になる。だから今日はもう、自由に泳がせておくのは終わりにしようと思って来たんだ――」
「くそ野郎……」
士乃は吐き捨て、行く手を塞ぐ岩内の脇をすり抜け、逃げようとした。だが後ろから襟首を捉えられ、身体を抱え込まれて口を手で塞がれた――岩内はそのまま士乃を脇に止めてある車へ押し込むつもりのようだ。乗せられたら終わりだ、逃げられなくなる――士乃はそう感じ、必死にもがいて抵抗した。口を塞ぐ岩内の手に思い切り噛み付く。血の味がした。
痛みに耐えかねたか岩内の力が緩んだので、その隙に士乃は夢中で腕から抜け出した。だが走り出した所で脚をはらわれ、路面に倒された。再び捕まえようと伸びてくる岩内の手をかわして跳ね起き、倒れた際に打った腕の痛みに耐えながら、滝井の待つ大通りへ向かって駆けた。
道路の反対側に滝井が乗ったハイヤーの黒い車体が見える。あそこまで行けば――と、車の中からふいに滝井が現れた。外に出た彼は、士乃に向かって何か叫んでいる――
「士乃ッ!危ない!後ろ!」
肩越しに振り向くと、岩内がハンドルを握る車が士乃に向かって突っ込んでくるのが見えた。
岩内の乗った車は士乃の身体をボンネットに掬い上げるようにして撥ねた後――大通りに飛び出し、走ってきた大型トラックの荷台脇に激突して停止した――
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