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第4話

「おい、あんまり緊張すんなよ」  緊張でカチコチのウミに声をかける。ウミはぎこちなくこちらに視線を向けただけだった。 「緊張しすぎると勃たないんだって」  溜息をついてウミの手を握る。大きな手はびっくりする程冷たく、しかも小刻みに震えていた。見た目はさっき会った時よりずっと格好良くなったのに、中身はそのまんまか。ハハ……と乾いた笑いをもらして「仕方ねーよな」と両手でウミの手を包んだ。  ウミはピクリと一瞬手を引くようなしぐさをして俺を見た。  檻の外は静かなのにいつの間にか人が増えていて、案外人気のアトラクションらしい。静かなのに品定めするような視線だけをやたらと感じる。  初めてでこれで勃たせろって、よっぽどの変態じゃなきゃ無理だろ。──まぁ、俺はこれくらい慣れっ子なわけだけど……。自嘲して、ウミをリードすることに専念する。 「ここに座って」とウミを積み重ねられた体操マットの上に座らせる。俺はぎこちなく座ったウミの足の上にまたがり向かい合って座ると、所在なく置かれたウミの手を背中に回らせて、自分の腕はウミの首に巻き付けて抱き付く。  腰を離した、ぎこちないハグに二人の距離感が現れている。 「ウミも金いるんだろ? やなんきゃなんねーのは俺もウミも一緒だ。だったら諦めて俺にまかせてくんね?」  客には聞こえないよう小さく耳元でささやくと、コクンとウミが頷いた。 「俺はウミって呼ぶ、ウミはナツって読んで。……俺のこと好きな奴だと思えってのは無理かも知んねーけどさ、いまだけはソイツだと思ってよ。まだ俺たち何も知らない同士だけどさ、俺ウミのこと嫌いじゃないよ。見た目も結構好みだし……身体からでも、知っていきたいよ」  なるべく甘い雰囲気になるように話しかけた。本当はウミなんて呼びたくないしナツなんて呼ばれたくない。けど、そう呼ばれて抱き締められたら、どんな場所でも嫌な事を忘れられる気がした。  昔、そう呼ばれていた時みたいに──。

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