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番外編 出会い2
ホロリ、と涙をこぼして再び眠りについた少年に、ドキリと心臓を射られた。同じ制服、ネクタイは茄子紺だから就職クラス、身体の大きさからしてきっと一年生だろう。中学は違うけれど、いくつかの中学が寄せ集まったような高校だ、聞けば誰か知っているだろう。
手に持っていたぺしゃんこのカバンの中には名前のわかるものがあるかもしれないが、本人の許可なしにそれを開けるのは忍びない。
繋がりが欲しいと思った。目の前で眠るこの少年と。
「遅刻する」と慌てて家を飛び出た時にはすでに遅く、無情にもいつもの電車は行ってしまった。いつもより30分遅い電車に乗り、いつもより遅くに人気の少なくなった通学路を歩いていると、学校まであと少しという所で同じ制服に会った。知らない奴だけど挨拶くらいは声をかけようかと思っていると、彼はなんだかフラフラとしていて、ついには立ち止まる……いや、倒れる──!
身体は自然に動いて、寸での所で支える。
「大丈夫か?」と聞くと、頷いて「あんたダレ? ほっとけよ」といきなりの憎まれ口。けれど、そのまま身体の力は抜けて、生意気な返事はするけれどちっとも大丈夫そうじゃなくて、放っておけずに先ほど買ったスポーツドリンクを飲ませ、その小さな身体を背負って保健室に運んだ。
返事はするけれど限界だったのか、保健室に着く頃には熱い身体からは完全に力が抜けて寝息が聞こえた。
救急車の方が良かったか? と心配になりながら養護教諭に預けると、倒れた生徒を見るなり「あー、またか。多分貧血だから……、ベッドに寝かせて」と言われて、保健室常連なんだと知った。
養護教諭は旺実が見守る中で手慣れた処置をすると「お疲れ様。先生たちに知らせておくから、君は少し休んだら授業行ってね」と言って保健室を出て行った。
改めて見ると少年は、ぱっと見ただけでわかるきれいな顔をしていた。面食いでない自分でも思わず見惚れてしまう寝顔だ。
どうせ一時間目は始まってしまったし、と何をするでもなくぼんやりと寝顔を見詰め、寝がえりを打った拍子に外れた保冷剤を脇に戻した。
──そして、さっきの涙だ。
重そうに開けられた瞼、問いかけに途切れ途切れに応えた「だいじょうぶ」の掠れた声。そして、再び閉じられた瞳からこぼれた涙──。
それだけの光景が頭の中でリフレインする。
生意気な憎まれ口をたたいたとは思えない、幼くてきれいな寝顔に見惚れていると一時間目の授業を終える鐘がなった。
さすがに、そろそろ教室に行かなければいけないだろう。後ろ髪を引かれながら、何か……と考える。
考えてから、コンビニで買った総菜パンとカルピスウォーターを袋ごと枕元に置いた。それに、願いを込めたメモを添える。
俺のことを尋ねてきますように──。
『朝メシもちゃんと食え。軽すぎ! 1A 日野原旺実』
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