その翌日のこと、学園の卒業パーティー。 みんながあつまり、始まろうとした瞬間声があがった。 「公爵令息スカーレット・サフィーレ、婚約破棄をしてもらう！」 この国の王子であるライルットがのたまったのだ。 傍らには怯える様子の金髪に青い瞳をもつ桃色の正装を着た可愛らしい少年、メアリア。 その二人の前に毅然とたつ艶めく赤髪にルビーのような瞳でそれらとはまた違った赤の正装をまとい臙脂色の杖をついた少年、スカーレット。 「理由はなんでしょうか」 スカーレットはまっすぐに問う。 その動じなさに王子はたじろぐが、すぐさま体勢を立て直す。 「いとしのメアリアをいじめたからだ！証拠は揃っている」 本人からの証言に、目撃者。 それが全部捏造であることをスカーレットは知っていた。スカーレットと婚約破棄するため、メアリアと一緒になるための策ともいえないような浅知恵。 王子はスカーレットがメアリアを突き飛ばしたり、メアリアか短時間場を離れた隙に物を壊したとのたまった。 だが、幼少に王子の不注意が原因で足が不自由になり杖が必要になったスカーレットに突き飛ばしたり、短時間で破壊をおこない逃げること、それができると本気で思っているのか。 しかし、王子の関心を己に保てなかったのは自分の力不足。 王子はかわいらしい男爵令息のメアリアに夢中だ。 こうなったらもう、王子とは信頼関係を築くことなどできない。 家からは勘当されるだろう。 「わたし、スカーレット・サフィーレ、婚約破棄を受け入れましょう」 わく王子とその取り巻き。 「お前を勘当する！」 と間髪いれずに、いい放つ父親。 予想通りと言うか、おそらく王子たちにそそのかされたのだろう。 相変わらず、浅慮で浅はかな男だとスカーレットは思った。 王子は罪人スカーレットをとらえよと取り巻きに命じ、スカーレットは密かに携帯していたナイフをジャケットの内側からナイフをとりだし片手で構え、軸を固定するように杖を強く握った。 向こうはこちらが武器を持って抵抗すると思わかったのか一瞬たじろぐ。 「おや、美しく炎のように勇ましい人だね。でも、あなたが手を汚すまでもないよ」 彼のまわりを囲むように円柱状に氷の壁が張られた。 後ろを振り向くと狐の仮面をした銀髪の青年が氷の壁の内側でこちらを見ていた。 ここのところ、貴族の不正の証拠を盗み出しては、新聞社や公機関に届けている義賊の姿、そのままだった。 「僕は怪盗白銀。スカーレット、君を盗みにきた。もう君は誰のものでもないんだろう？」 「はい、そうですね」 彼は昨日の夜のことを思い出す。 ここ一年ほどで心を許せるほど仲良くなった庭師の青年に吐露したことを。 スカーレットにとってこの婚約破棄の出来事は予想できる出来事だった。 それでも事前に王に進言するなり対策をしなかったのは、彼がもう疲れていたからだった。 足が不自由な原因を作った自分を嫌う婚約者の王子に、自分を王国の歯車としか見ていなく頭が良すぎる彼を疎ましく思う両親と、頭の足りない王子の補佐として王妃として生きることを命じた王。厳しい王妃教育をスカーレットに施しながら、王子の教育には甘い王妃。 努力をして何事も優秀にこなしても誉められることのない日常。 その全てに疲れていた。 唯一、自分を誉めてくれてその努力を認めてくれた庭師の青年に心を傾けるほどに。 庭師の青年とは偶然真夜中の庭園で会い、外出しようとした庭師の青年の行動を黙認す代わりにたまに真夜中の庭園で会うようになって、友人のように親しくなった。 昨夜は翌日起こるであろうことをすべて話すと青年は、庭師とは思えないほど気品に溢れた笑みを浮かべた。 「あなたが何者でもなくなったら迎えに伺ってもよろしいですか？」 スカーレットは青年の立ち振舞いからただならそうな身の上に気づいていたが、うなずいた。 青年に好意をもっていたし、もうどうなってもいいと思ったから。 仮面で顔を隠し、髪の色も昨日までとは違うが少年には彼が庭師の青年だとわかった。 「わたしを盗んでいただけますか。怪盗さん」 スカーレットは青年に向けて手を差し出した。 「もちろん。僕の美しき紅玉、スカーレット」 青年は彼の手をとり、その体を横抱きにする。 そして彼の杖を腰にさす。 その瞬間、氷の円柱は砕け散り、青年と少年は消え、困惑だけが場に残された。