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第2話

「昴くん、来てたんだね」  パートの酒井(さかい)が品出しから戻ってくると言った。 「おお」 「自動ドアのとこで会って、手振られた。今日もキラキラしてたー」  そんな事を言って少し頬を染めている酒井だが、年はアラフォーで昴と年の変わらない息子がいるはずだ。 「可愛いっすよね、昴くん」 「うちの息子もあのくらいイケメンだったら……」  昴の人懐こさと顔の良さが相まって、店では昴はアイドル的存在になっている。 「きゅるるん、とした笑顔が堪んないっすね。ああいう受けっぽい子がベッドでクズクズに泣かされてるのとか、エロくて萌えますねー」  豊橋が何を想像しているのか、視線を天井に向けている。 「受け?」 「BLでいう、ネコ役です」  豊橋がドヤ顔で言い放ち、松木はその言葉にギョッとする。 「まっつんが攻めで昴くんが受け、とかどう?」  酒井も面白がって話に加わる。 「いいっすねー、歳の差カプ、冴えないおっさん攻め×イケメン高校生受け。やべ、一つネタできたわ」 「冴えないおっさんって……俺はまだ三十二だぞ。そうやってすぐ脳内で一次創作するのやめろ。俺はおっぱいが好きなの! 巨乳が好きなの! 《びーえる》にはなりません!」  レジの点検をする為に松木は引き出しからコインカウンターを取り出した。 「でも、まっつんじゃ、昴くんにはもったいなくない?」 「まぁ、それも一理あるかな」 「いい加減その変な妄想やめなさい」 「じゃあ、その変な妄想されないように、早く彼女作ったら?」  酒井の言葉に松木はグッと言葉を詰まらせる。 「う、うるせーよ……」  前に彼女がいたのは三年前。五年付き合った彼女で松木自身は結婚を考えていたが、プロポーズをしたらあっさり振られてしまった。その心の傷は思ったより深く、未だ恋愛に対して臆病になっていた。  豊橋が望むようなBL展開にはならないが、素直に昴の事は可愛いとは思う。少なくとも彼が来るのが楽しみだと思うくらいには、昴を可愛いとは思っている。  豊橋と酒井はそれでもBL妄想話に花を咲かせており、 「豊橋さんは点検! 酒井さんはもう上がりでしょ!」 「「はーーーい」」  二人は間延びした返事をし、そこでやっと雑談をやめた。  昴は、週にニ〜三回は店に顔を出す常連客だ。家も近くの住宅地とあり、暇さえあれば店に顔を出し、人見知りしない人懐こい性格と見た目の可愛らしさからすっかりこの店のアイドルと化していた。 元々、よく店には来ていたようだったが、ある事がきっかけで松木は昴に懐かれた。  それは松木がこの店に異動してきて間もない頃。  その日、夕方の掃除当番で風除室を出て、外の掃き掃除をしていた。  店内に戻ろうかと思った時、三〜四歳の男の子が一人、自動ドアを抜け外に出てきた。 「?」  周りには保護者らしき大人はいない。  目の前には大きな道路。左に行けば駐車場だ。 (あっぶねーな。親はどうした)  松木は目の前を通り過ぎようとした男の子を抱き上げた。 「うわー! たかーい!」  一八〇センチ越えの松木に抱え上げられ、その景色に感動している。 「ママかパパは一緒じゃねえのか?」 「にーたん」 「にーたん? にいちゃんときたのか?」  コクリと男の子は頷く。  松木は一緒に来ているであろう兄を探す為、店内に入ろとした時、 「慎之助!」  高校生くらいの少年がこちらに駆け寄ってきた。 「にーたん!」 「どこ行ってたんだよぉ!」  少年は泣きそうな声を漏らしている。 「にいちゃんか? 外まで出てたぞ」 「嘘! ーーありがとうございます!」  そう律儀に頭を下げた。  松木は男の子を下ろそうとすると、 「いや! 抱っこ!」  そう言ってイヤイヤと首を振っている。 「おっちゃんは仕事中だから、また今度な」  ぽんぽんと頭を撫でてやると、可愛らしく頬を膨らませた。 「ちゃんと目離さないでいてやらないとダメだぞ」 「はい……ほんと、ありがとうございました。ちょっとだけ、本に夢中になっちゃって……」  そう言って少年は申し訳なさそうに下を向いた。  その姿を見て、無意識に少年の頭に手を乗せていた。 「しっかりな、お兄ちゃん」  顔を上げた少年の顔は朱色に染まっていた。  それが昴と顔見知りになったきっかけだった。

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