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第11話
ところがーー
週に二度は顔を出していた昴が、一週間一度も姿を現していない。
昴には部活もあるし当然勉強もある。春休みも終わり昴は三年に進級、受験生という身になり、学校が忙しいのかとも思った。
それが二週間も顔を出さず、連絡もないとなるとさすがに何かあったのではないかと心配になってきた。いつも用もないのに送られてくるメッセージすらない。考えてみれば、松木から連絡をする事は一度もなかった。連絡せずとも日を置かず昴から連絡から連絡がきていたからだ。
「最近昴くん、来ないっすね」
豊橋が松木の心情を察したように言った。
「学校が忙しいんだろ」
そう自分に言い聞かせるように言葉を漏らした。
昴に対して松木は、恋愛感情に似た想いを抱いているのを認めざる得なかった。可愛いというだけでは済まない感情。それよりももっと強い感情だ。可愛くて愛しくて、例えるなら、《宝物》のような。
男性に恋愛感情を抱いた事は過去なかったが、少なくともキスをしたいと思った時点でそういう事なのだと確信した。更に、AVの女優を昴と重ね、致してしまうという。
自分が思うように昴も同じ感情を抱いているのだろうか。そう思う時もあれば、違うのではないかと思う時があり、正直、昴の気持ちの真意を測り兼ねた。とにかく昴の気持ちが読めないのだ。掴み所がないというか、何を考えているのかが分からない。もし、互いに同じ気持ちだったとしても、男同士でどうすればいいのかーー。
グルグルとそんな事ばかり考えるも、答えは一向に出ない。
それより今は、昴と会えない事にモヤモヤする。
(高校生に振り回されてるおっさんって……)
そんな自分が惨めに思えてくる。
ーーはぁ。
無意識に大きくため息を一つ吐くと、モップ掃除を再開した。
今日は数少ない中番だ。アダルトでも借りて帰ろうかとも一瞬思ったが、そんな気分にもなれず、また一つため息を漏らした。腕時計を見れば、退勤の時刻まであと十五分と迫っている。急いで児童書コーナーのモップ掃除をし、商品整理をした。
「まっつん……」
聞き覚えのある声に呼ばれ、振り向けば私服姿の昴が立っていた。
「ーー昴!」
昴の無事な姿を見て、酷く安心している自分がいる。モップを放り投げ、昴に近寄った。
「全然顔見せないから、心配したぞ。学校忙しかったのか?」
松木の言葉に昴は俯きながら、無言で首を振った。
「ーーこれ、返しにきた」
そう言って昴は紙袋を差し出す。中を見れば、先日の雨の日に貸したパーカーだった。
「わざわざ洗ってくれたのか。悪いな……そうだ、俺もう上りだから飯でも……」
先程から昴は下を向いたまま顔をあげようとしない。
「昴?」
俯く昴の顔からポタポタと水滴が落ち、昴の足元を濡らした。
(泣いてる……!? )
ギョッとし、周囲を見渡す。日曜日の客の引きは早い。客の数も既に疎らで、幸い今いる児童書コーナーにも人はいない。
「ど、ど、どうした?! 何で泣いてる?!」
オロオロとみっともなく取り乱し、昴の肩を触れると顔を覗き込んだ。
一度[[rb:堰 > せき]]を切ったように流れ出た涙は止まる気配はなく、次から次に落ちる雫で床を濡らした。
松木はポケットにあったハンカチを取り出し、昴に渡そうとするも、
(これ、昨日から入れっぱだ……)
そんな事に気付いてしまい、それを渡すのを一瞬躊躇う。クンクンと匂いを嗅ぎ、大丈夫そうだと分かるとそれを昴の目に当てた。
「匂ったら悪い」
そう言って流れ出る涙を拭ってやると、昴はハンカチごと松木の手を握った。
「俺……俺……変に、なっちゃ、た……」
ヒクヒクと子供のように嗚咽を漏らしながら、何とか声を絞り出す。
「変? 何が?」
「お、おれ……お、れ……うぅっ……う……っ……」
更に泣いてしまい、話にならない。腕時計を見ると既に九時を回っていた。
「俺もう上りだから、ここで待ってろ」
な? そう子供をあやす様に言うと、昴は小さく頷いた。
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