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第13話

次の日、ずっとソワソワしている豊橋の視線を痛いほど感じていた。閉店三十分前になり、あとは最後のレジを閉めれば本日の業務は完了だ。 「心配かけたな」  パソコンに向かって入力をしている豊橋に声をかける。 「大丈夫でした?」 「ま、ね……」  豊橋はそれ以上、何かあったのかは聞いてはこない。 「ーーなあ」  たっぷりと間を作り、 「BL本貸してくれよ」 そう言うと、豊橋は糸目の目を見開き、次の瞬間には何かを悟ったように笑っている。 「BL本を参考にすんな」 「ならねえかな?」 「BLの世界って、あたしはファンタジーだと思ってるんで」 「現実にはないって?」 「ないわけではないでしょうよ。実際そういう人もいるし、悩んでる人もいると思うし……何を悩んでんの? 男同士だから? 年の差あるから?」 「どっちも、だな」  豊橋は入力を終えたのか、パソコンをパタンと閉じた。 「俺もあいつも同性愛者じゃない。まあ、俺はある程度の経験はしてきたし、この年だから自分の責任は自分で取ることはできる。けど、あいつはまだ高校生で、これから色んな出会いが待ってると思うんだよ。それこそ、彼女や結婚相手、とかさ……」 「それを自分が奪ってしまうんじゃないかって?」  豊橋の言葉にコクリと頷いた。 「ここで俺があいつの気持ちを受け止めしまったら、この先あいつの人生どうなっちまうのかなって」 「ははは……! 一生愛されていく前提か! まっつんが振られるかもしんないじゃん!」 「まあ、そうなったらなったで仕方ないんだけどよ」  実際そうなったら、酷く落ち込むだろう。 「もし、あいつに別の相手が現れたら、潔く身を引くべきだ、とは思ってる」 「大人ぶって、まぁ、強がっちゃって」 「そりゃ、大人ぶるだろ! 三十二だぞ?! あいつより十五も上なんだぞ?! みっともない姿見せたくねえし」 「面倒臭い男だねえ」  その言葉にムッとし、口を尖らせた。 「そういうの含めて、昴くんはまっつん好きなんでしょうよ。そもそも昴くん、まっつんの何がいいのか疑問だけど」  更に口を尖らせ、首を突き出した。 「確かに同性愛者に対する理解はまだまだだしね。異性を好きにならなといけない、結婚して子供を作らないといけない……でもさ、それが全ての人にとって幸せかって言ったら違うんじゃないのかな? 結局、まっつんと昴くんの思う幸せは何かってことよ」  豊橋の言葉に松木は心のモヤが晴れたように感じた。 「一緒にいたいって思うなら、とことん一緒にいればいいじゃん」 「たまにはいい事言うね……」 「たまにってなんだ」 「ただの腐った人じゃないんだな」 「まあ、腐ってるから理解してあげたいって思うのかもね。男同士で惹かれあって、本来なら友達で済むのに、好きになってしまった……。あたしがBLで尊いと思うのはそこよ。元々ノーマルの人が同性を好きになるって相当想いが強いってことなんじゃない? 素敵じゃん」  豊橋以外にそんな風に言ってくれる人はいるのだろうか。でも、たった一人でもそう言ってくれた事に、随分と肩の荷が降りた気がする。松木の中での覚悟が出来た気がした。 「あいつーーこんな冴えないおっさんのどこがいいんだろ……」 自分で言って、自信喪失していく。 「そこはあたしも理解し難いけどーーそれは昴くんにしか分からない、まっつんの良さがあったんでしょ。いうても、すぐ振られるかもしんないじゃん」 「なんで二回言うの⁉︎」 「まあ、せいぜい振られない様に頑張んなよ。相談料の代わりに、二人を題材にした薄い本、出させて」 「やめてください」 「あ、昴くん、まだ未成年なんだから、エッチは高校卒業するまで我慢だよ、まっつん」 「!!」  豊橋の爆弾発言に松木は固まる。 「じゃあ、しめまーす」  気付けば閉店時間になっており、慌てて自動ドアの鍵を締めに行った。

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