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第14話
昴の自宅前に車を付けると同時に、昴が玄関から出てくるのが見えた。
「おはよー、まっつん」
「はい、おはよー」
昴が乗り込むのを確認し、車を発進させた。
昴は以前のように変わらず店に顔を出すようになった。時間の合間を縫ってご飯を食べるくらいはしていたが、一日一緒にいられるのはN市でのデート以来だ。学校が始まり土日が休みの昴と、基本的に土日出勤の松木ではなかなか休みが合わず、今日やっと日曜日の休みを松木はもぎ取った。
お互いの気持ちを確かめた日から、一か月が過ぎていた。現状、付き合っていると呼べる関係なのか、はっきりしていない状態と言えた。豊橋に悟られ、ちゃんとしないといけないと思いつつも思いのほか、改めて気持ちを確かめる事が怖かった。狡いとは思いながらも、昴から何も言ってこない事をいい事に、その話はしないでここまできてしまった。
昴のリクエストで、大型のスポーツショップが入っているショッピングモールに行く事にした。日曜日ということもあり、混雑は思った以上だった。
目の前でウェアを選んでいる昴を見つめる。
「どっちの色がいいかな?」
同じデザインの青のTシャツと白のTシャツを松木に見せている。
「うーん、白?」
「じゃあ、白にする」
そう言って青いTシャツを元あった場所に置いた。
まるで恋人同士のような会話だと、松木は頬を緩める。そんな会話を聞いた周囲の人たちにしてみたら、自分たちは一体どんな関係に見えるのだろうか。年齢が近ければ普通に友達だと思うだろう。年の離れた兄弟? 叔父と甥? まさか親子に見えるという事はさすがにないーーと思いたい。おそらく、恋人同士という選択肢は最も低い様に思える。だが、松木は気付いた。案外、人は周りに目を向けていないものだという事を。その事に気付いたら、随分と気持ちは楽になった。
「お腹すいた」
既に時刻はお昼をだいぶ前に過ぎていた。
「何食いたい?」
レストランが並ぶフロアを昴は何回か往復する。
「オムライス!」
オムライス専門店に入り、テーブル席に案内された。
メニューを広げ、昴は目を輝かせて選んでいる。
「ねえ、後ろの二人ってどういう関係かな?」
松木の真後ろの席からそんな声が聞こえた。
「えー友達じゃないの?」
「でも結構、年の差あるように見えた」
向こうはこちらに声が聞こえていないと思っているのか、会話を続けている。
「……カップル? だったり」
その言葉に、松木の頭に血が昇るのを感じた。
「大地兄ちゃんは何にする?」
不意に昴は、隣まで聞こえるような大きめな声でそう言った。
「ーーなんだ、違うじゃん」
昴のその一言に、後ろの女性客の興味はあっさりと逸れたようだった。
まだ子供と呼べる年の昴に気を使わせてしまった。何より、惨めな思いをさせてしまったかもしれない、そう思うと松木は悔しさで泣きたくなってしまった。
「どうしたの?」
ぼうっとメニューを眺めている松木に昴は声をかけた。
「いや、うん……ごめんな」
昴は少しキョトンした顔をすると、松木が何に謝っているのか察したのか、一つ笑いを溢す。
「気にしてないよ、俺」
普通なら傷付く場面のはずだ。だが、何故か昴は満足そうな笑みを浮かべていた。
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