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第15話

帰りに、夜景が綺麗だと評判の高台にある公園に向かった。  車から降りると、昼間は暖かくなったとはいえ夜はまだまだ冷える。昴は薄手のロングTシャツ一枚の姿だ。松木は車に常備していたブルゾンを昴の肩にかけた。 「ありがとうーーまっつんって、こういうことサラッとするよね」 「そうか?」 「うん、なんか大人的な」  そう言って昴は笑った。 「この前のデートの時、車をバックさせる時の左手とか、ナチュラルに手繋いでくれたりとか、さ……いちいち、まっつんの仕草にドキドキしてた」  風が一瞬強く吹き、昴の綺麗な髪が風になびいた。 「この間のキスだって……まっつん凄く手慣れてて、あれだけで俺、フニャフニャになっちゃったし……昔の彼女とかにもこういうことしてたのかな、って思ったらーーちょっと嫉妬しちゃた。俺は全然子供で、年も離れてるし、その前に男だしさ……」  昴はそう言って少し悲しげに笑った。 「そうだな……年は縮まる事はないし、性別を変えることもできない。けど、おまえは大人にはなっていくだろ?」  柵に寄りかかると、隣に並ぶ昴を見た。 「昴がせめてーー高校を卒業するまで待とうと思った。ある程度、昴が自分に責任を取れる年まで、我慢しようってな……でもーー俺は昴が大人になるまで待てない」 少し間を作り、小さく一つ息を吐く。 「好きだよ、昴」 そう昴に告げれば、信じられない様子で見開いた目を松木に向けている。 「おまえは高校生の未成年で、ひと回り以上も年下で、男だけどーーその昴を好きになった。おまえが俺に飽きるまででいい、こんな冴えないおっさんだけど、俺の恋人になってくれないか?」  そこまで言うと昴は、顔をくしゃりと歪ませ、松木の胸に飛び込んできた。 「俺も……好き……だよ」  松木のシャツが昴の涙で濡れていく。 「飽きる事なんてないよ……まっつんはカッコいいもん」 「ーー昴」  一度体を離し昴の顔を正面で捉えると、昴の頬を両手で包み込んだ。   「さっきみたいに、嫌な思いをする時もあるかもしれない……けど、どんな事があっても絶対に俺がおまえを守るから」  年の離れた同性と一緒にいるというだけで、なぜあんな風に言われなければいけないのか、なぜ、好奇な目を晒されないといけないのか。 きっとこの先も、こんな風に嫌な思いをする事もあるだろう。豊橋のように理解してくれる人間はおそらく稀だ。  自分はいい、何を言われようと耐えてみせる。だが絶対に昴にはそんな思いをさせたくはない。 「さっきって……ご飯の時?」 「ああ、後ろにいた客が変な勘ぐりしてたの、聞こえてただろう?」  昴はキョトンとした顔で松木を見上げると、 「全然、気にならなかったよ。だって、まっつんと一緒にいられる事が嬉しくて幸せだなって思ってたから、その気持ちのが強くて、誰にどう思われてるなんて、頭になかった」  そう言って昴は松木の胸に頬を擦り寄せてきた。  その言葉を聞いた瞬間、目頭が熱くなるのを感じた。涙を見られたくなくて、誤魔化すように昴を強く抱きしめる。 「まっつん、泣いてるの?」 涙を我慢するあまり、体が小刻み震えてしまい、あっさり泣いている事が昴にバレてしまった。 「まっつんが、俺を守ってくれるって言ってくれて凄く嬉しかったけど、俺もまっつんを守るよ!俺だって守られてばかりじゃ嫌だもん。まっつんも俺に甘えてよ。だから、たくさん泣いていいよ、まっつん」  必死に我慢していた涙は、昴のそのひと言で一気に溢れた。  自分より全然年下でまだ子供である昴の方がよほど潔く、男前だと思った。自分は必要以上に考え過ぎてしまうところがある。『昴の為』と言い訳をしながらも結局は、臆病になって、現実と向き合うのが怖かったのだ。 「俺は……おまえに出会えて……おまえを好きになってーーうん……良かった……好きだ、昴」  こんなにも泣いたのは、いつ以来か。年甲斐もないと自分に呆れながらも、松木の涙は止まる事がない。思わず昴の肩口に顔を埋めた。 「俺も、まっつんを好きになれて良かった。大好きっ」  ーーもう、迷う事など何もない。  今、ここにある想いこそが幸せなんだと。  昴を想う自分、自分を想う昴。  年の差も性別も関係ない。  好きになって良かったと、誇れる想いはここにある。 「幸せにするね、まっつん!」 「男前だなよな、おまえは」  そう言って互いの額を合わせて見つめ合う。  ーー愛してる  そう同時に呟き、二人は唇を重ねた。  ルームミラーに飾られている人形が、二人を祝福するかの様に何度もクルクルと回っていた。                   完

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