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一目惚れだった

 邪魔にならないように気をつけながら、コーチに続いて課長と一緒にそっと体育館へと足を入れた。途端に、体育館中に広がる熱気が体を包んだ。  うわぁ。凄いな。  初めて間近で見る、プロと言われる選手たちのプレーだった。丁度、試合形式の練習中だったらしく、普段の試合さながらの雰囲気で選手たちも真剣だった。  あ。  その中に。一際動きが良く、目立つ選手がいた。須藤だった。  まるで手にボールが吸い付いているかのように、寸分も違わずドリブルを続けながら、視線は周りを冷静に伺っている。飛び抜けて背が高いわけではないのに、なぜかその存在に目を奪われた。正確なパスにアシスト。パワーフォワードという攻撃でも守備でも要になるポジションの須藤は、うまく周りの選手をリードしながら自らも切り込んで軽々とシュートを決めていく。  一目惚れだった。たぶん。  今まで男でも女でも言い寄られることはあったが、自分から好きだと自覚したことはなかった。だから、これが本当に惚れたということなのか、それすらも曖昧だったけれど。でも、あのとき。自分は確かに須藤から目が離せなかった。  ただ、そのわずか数分後に、惚れた相手の性格がイマイチだったことにがっかりすることになったのだが。  休憩に入ったところで、コーチが須藤とその他数人の選手を呼び寄せた。名前を呼ばれた須藤がこちらを見た。目が合った気がしてどきりとする。が、すぐに逸らされた。  わらわらと呼ばれた選手が集まってきた。 『こちら、市役所の畑野(はたの)さんと中村さん。今度、地元のイベントあるだろ? あの、子供に教える教室の。あれの準備をしてくださってる』  そう説明した後、コーチは選手を一人一人紹介してくれた。今度のイベントに出席してくれる4人の選手だった。最後に、須藤が紹介された。 『で、こっちが須藤』 『畑野です。宜しくお願いします』  課長が先に挨拶をし、その後に続いた。 『中村です。宜しくお願いします』  ニコリと笑顔を向けて深々とお辞儀をした。顔を上げると、じっとこっちを見つめる須藤とばっちり目が合った。が、またしてもすっと目を逸らされる。 『どうも』  須藤はぼそりと小さく呟いて、軽く頭を下げた。  なんか、感じ悪いやつだな。  相手が丁寧に挨拶してんだから、ちゃんと目ぇ見て挨拶し返せやっ、と礼儀にうるさい慎弥は心の中で思う。人見知りだからとかそういう理由で礼儀を欠く態度をされるのは納得がいかなかった。  が、こちらとしてはリーグ戦が始まった忙しい中で協力してもらっているという弱みもあったので、文句は言えないのだった。

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