6 / 29
第5話
お次はテレビ。しかも公共の方。
こちらはさすがに撮影許可は下りなかったが、見学はさせてもらえることになった。もちろん番組内容に触れることは口外NGである。
今人気のライトノベル作家とのバーチャル対談だ。アバターでの対談になるらしく、宝石君は動作や表情を記録するためのセンサーを身体中につけられていて画面に映った姿は王女様風アバターになっていた。部屋にはテレビ局のスタッフが数人いるが、全て女性スタッフ。やはりこれは宝石君サイドからの指定だな。テレビ局のカメラマンが女性だけなんてことは流石にないだろうし。
画面越しの対談相手はライトノベル作家の辻元カオ流。25歳男性。今時流行りの異世界物を書いている。彼のアバターは中世騎士のような容貌になっていた。会話の内容を聞いていると、軽いノリで作ったり、たまたま跳ねたというわけではないようだ。偶然そうに見えてちゃんと読者の好みを分析して戦略的にヒットを飛ばしているらしい。宝石君も同じような考えを持っていてお互い話しがあって楽しそうだ。凡人が、何も考えず『億越え羨ましい』とか妬んですみませんね。
「これで今日の仕事は終わりですか?」
終了したのは20時過ぎ。バタバタと撮影スタッフは撤収して行った。
「あと動画1本」
そうか、1日必ず2本だったな。
「疲れたんなら寝ていいよ」
「いえ、お邪魔じゃなければ取材させていただきたいです」
どんなに疲れていようと貴重な取材の機会だ。許可が下りてる間はずっと撮らせてもらう。
「じゃあ、来れば」
またスタイリングをしてもらうんだろう。宝石君は続き部屋に向かった。
着替えが終わり、ダイニングに移動すると、すでに撮影ができるようにカメラが設置されていた。綺麗に飾られた果物やケーキがオブジェのように並んでいる。そこに座った宝石君はそれを美味しそうに食べ、視聴者にも食べさせているような仕草を見せる。バーチャル彼氏って感じ? 彼氏じゃないか。彼女? やっぱ妖精かな? 真っ白いふわもこの服を着た宝石君が葡萄を一粒摘んでカメラ前に差し出す。
画面の向こうで、信者達がうっとりと口を開けてんだろうなーー。
小一時間そんな茶番が続き『おやすみ僕のプリンセス。続きは夢の中でね』と宝石君が囁くと撮影が終わった。
うーーおじさんちょっと恥ずかしくてモニョっちゃったよーー。
・・・・*・・・・*・・・・*・・・・
「おしまいでーーす」
衣装を脱がせてもらいながら宝石君が言った。メイクを落とした顔が少し青白い、流石に疲れているみたいだな。思ったよりハードワークだ。これも簡単に稼いでると思っててごめんなさいだな。
「お疲れ様でした。明日は何時から取材してもよろしいでしょうか?」
「何時だったかなーー部屋に行くついでに聞いておいてーー」
宝石君がそう言うとすぐに女性スタッフがやってきて宿泊する部屋に案内してくれた。明日は10時から動画撮影。午後から雑誌取材が1本。あとは未定だそうだ。取材時以外はここを出ないこと。食事や何か必要なものがあれば、スマートスピーカーで依頼すれば、いつでもこの部屋に届けることも教えてくれ、夜食を頼むとサンドイッチとワインを用意してくれた。
10畳以上はある真っ白な部屋にふかふかのダブルベット。Wi-Fiも繋がるし風呂もトイレもルームサービスまでついていてまるでホテルだ。俺のアパートより全然広いし、このまま住みつきたい。
しかし俺も未知の体験ばかりで流石に疲れたな……シャワーを浴びたら今日は早めに寝てしまおう。
ともだちにシェアしよう!