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第10話
宝石君の一番の特徴はあの身長だ。今時の男子であの身長はかなり珍しいだろう。SNSのどこかに手がかりが残っている気がする。見るに耐えないが、ここにも手がかりが残っているかも知れない。宝石君に渡されたUSBをパソコンに入れた。
うう……彼女とだってハメ撮りなんかしたことないのに。しかし最初は耐えられなかった映像がまるで映画のワンシーンのように見えてきた。全然生々しさを感じない。艶かしく揺れる小さな体がまるでインキュバスのようだ。俺が後で見ることを想定しているのだろう。自分の上に乗りながら宝石君はこちらを見て笑った。挑発しているのだろうが、あまりにも妖艶で不覚にも見入ってしまう。衣装に着替えるときには気づかなかったが、白い背中に大きな傷があった。まるで天使が羽をもがれた跡みたいに縦に2箇所。足も一時的な怪我じゃないみたいだし、過去に大きな交通事故にでもあってるのかもしれない。日本人だとしたら喋り方からして関東出身だろう。公開されているフェイスブック上で、14歳から順にローラーをかけていく。ご本人のページはあるわけはないが、同級生に紐づくかも知れない。もちろん、インスタ、ツイッター等も彼に関わるかも知れない単語から検索。パソコン2台とタブレット、携帯を同時にフル活用だ。絶対に見つけてやる!
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コーヒーとタバコとウーバーで家から一歩も出ず籠城すること3日。【小さな体】という単語にひっかかって来た記事が気になった。19歳の男性のまるで詩のような一記事。
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小さな体が無数の手によって宙に浮いた。
僕はそれを止められなかった。
それどころか、怖くて一緒に手を上げた。
彼が落ちていく時、目が合ったんだ。
その顔がずっと頭に残って忘れられない。
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しかもその記事だけ、異常にイイネがついていて、なのにコメントは1つもない。
取材時の素顔の宝石君の写真と一緒に『彼を知りませんか?』とダイレクトメールを送ると、半日ほどして返事が返って来た。自分の身分を明かし取材を申し入れると、会うだけならと承諾が取れ、その日のうちに池袋のカラオケ店で待ち合わせした。
青柳透 君。都内在住。19歳、介護施設勤務。ちょっとおとなしめだが、普通の今時の青年だった。送った写真の他にも数枚見せると、多分自分の知っている人間だろうとボソリと言った。彼の証言によると宝石君の本名は松岡壱哉 。東京都墨田区出身。彼と同じ男子校の同級生で同じく19歳。高校1年の時に大怪我をして中退したことがわかった。
「あの文章は彼のことを書いたのでしょうか?」
「……そうです」
「あの、ここで話すことは記事になるのでしょうか?」
「いえ、あなたの承諾をいただけない限り、公表することはありません」
「そうですか」
「あの文章から推測するにイジメによる事故があったと言うことでしょうか?」
「……はい。ずっと後悔してて、謝りたくて、でもその術もなくて……謝罪というつもりではないのですが、あの文章を書きました。まさかあんな一文で取材が来るなんて思いませんでしたが。彼は元気なんでしょうか?」
「元気ですよ」
「そうですか。良かった」
「辛いことかも知れませんが、詳細を話していただくことは出来ますか?」
「……ずっと誰かに話したかったんです。俺の覚えている範囲ですが聞いていただきたいです」
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想像以上のとんでもない駒が出てきてしまった。
彼らが高校1年の秋、校舎屋上での体育祭に向けての練習時にそれは起こった。同級生の数人が体調不良で見学していた宝石君の体を持ち上げたのだ。まるで胴上げでもするように軽い彼の体を宙を舞わせた。彼らは、そこにいたクラスメイトにも参加するように強要し、興奮状態になり最後に屋上から放り投げた。宝石君は救急車で搬送され、そのまま復学することはなく中退。体育祭リハーサルの事故と言うことで片付けられ、彼やクラスメイトには口頭での注意だけで、事件になることもなく、彼の安否も知らされなかったそうだ。
あの背中の傷と足の負傷はその時のものだろう。その事件の前に担任の男性教諭が宝石君に乱暴するところをクラスメイトが目撃したことで彼へのイジメが横行していたこともわかった。
「今でも夢に見るんです。彼の自分を見る絶望的な表情を。俺結構仲良くしていたのに、怖くて、流されて裏切ってしまった」
彼が介護職に進んだのも、もしかしたらこの件が影響しているのかも知れないな。
「話せてスッキリしました。記事にしていただいても構いません。罪に問われても仕方ないと思ってます」
青柳君は別れ際、大きく頭を下げながら許可をくれた。
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