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第12話
結局記事は無難な内容になった。
密着3日間。プライベートの彼の姿や、仕事への姿勢。趣味嗜好など。それだけでも、十分過ぎるほどのスクープで、雑誌はもちろん、有料動画配信記事も爆売れした。
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東京一入手困難だという菓子折りを持って神松にひきづられ、また宝石君のマンションを訪れた。
正直、足取りは重い。記憶はないがやったこととか、宝石君の過去とか素性とか、今回独自に取材したことについてはなにも記事にできなかったこととか、何ひとつ整理がついていなかった。
「本当にありがとうございます! おかげさまで、刊行以来の売り上げを出させていただきました。是非またお願いできれば大変ありがたいと思っております」
恭しく菓子を献上すると、ほんとに土下座すんじゃね? という勢いで神松は宝石君の前で大袈裟に頭を下げた。
「それにしても綺麗だなーー!」
なんて宝石君を見てデレている。見た目はふわふわマカロンでも、食うと、とんでもない激辛まんじゅうだとも知らないで!
「つまんなーーい! あんなに沢山ネタあげたのにさーー」
「おま! まだ何か持ってんのか?」
宝石君の言葉に神松は驚いて俺を見た。
「編集長! その話は後ほど編集部でしますので!」
慌てて宥めてその場を収める。
「これから動画、撮るからこれで終わりね」
「あ、はい。失礼しました! お忙しいところお邪魔しました!」
そそくさと神松は椅子から立ち上がり幾度も頭を下げると部屋をあとにする。俺も頭を下げ部屋をでた。
しかし、やはり聞いておきたい。廊下に出たところで立ち止まる。
「編集長。先に帰っててくれませんか? ちょっと彼と話したいことがあるので」
「……お前また面倒なことに足突っ込んでんじゃないだろうな?」
神松は怪訝な顔して振り返り自分を覗き見た。鋭い。さすが同じ脛に傷を持つ身。
「すぐに戻りますから!」
もう一度さっきの部屋に戻る。
「なに忘れ物?」
戻るとまだ宝石君は部屋にいた。
「なんで俺と寝た?」
「んーー黒木さん。好みだったから」
(そんなわけねーだろ!)
「俺にお前の過去のことを調べさせて暴露させるためか?」
「そうかもね。でも失敗だねーー見込み違い。つまんない大人。もう用事はないよ。二度とここには来ないでね」
投げられたUSBが頬に当たった。
「あげる。コピーはとってないよ」
汚いものでも見るように自分を一瞥すると、宝石君は背を向けて奥の部屋に行ってしまった。
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