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第13話

 自分に起きた忌まわしい事件を明るみにして欲しい……と言うのが宝石君の望みだったのだろうか……宝石君にとってはひどい出来事でも、明るみに出すにはリスクが大き過ぎる。  確実な証拠で固めていない現状の公表では、被害者とはいえ本人へのダメージはかなりのものになるに違いない。誹謗や中傷で彼のユーチューバーとしての地位を維持するのも難しくなるだろう……。  あれだけの人数が関わった大きな事件を事故として隠蔽できたことにも得体の知れない大きな力を感じる。大物の子供が多く通う有名な進学校だ。下手したら逆に訴訟を起こされかねない。  ・・・・*・・・・*・・・・*・・・・  間違っていない判断をしたと思うのに、彼の自分を侮蔑した表情が忘れられない。自分は殺されかけたのに、当時汚い大人達が寄ってたかって事件を隠蔽したんだろうな。それを知って同じことをする自分はそいつらと一緒ということなんだろう……あの動画をネタに俺を脅して無理に記事にさせることもしなかった。  やっぱ俺、きったない大人なのかな? 守ったつもりだが、彼は守られたくなんか、ないのかも知れない。今の成功を無にしてもいいくらいの怒りと悲しみが彼の中にあるのかも知れない。  そうだよな。殺されかけてんだから。 『()()()さん』  宝石君は昔、散々叩かれた時の俺の蔑称を知っていた。俺が同じようなイジメ問題を取り扱っていたことを知っていて俺をターゲットに選んだのは明白だ。もしかしたら彼が唯一信頼しようと思った大人だったのかもしれない。  ……それでも俺は宝石君の兵隊にはなれない。正しければいいのだと思い込んでいた、若いだけのバカな男と同じ過ちは絶対に繰り返さない。  振りかざした傲慢な正義で、全てを不幸にする。あんな過ちをまた繰り返すなら淫行で捕まった方がよっぽどマシだ。

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