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第22話

「すごーーい! でかーーい! 乗りたーーい!」    象を見て宝石君はご機嫌だ。大丈夫だとは思うけどあんまり目立たないでほしい。上野は流石にやばいかもと思いレンタカーを借りて多摩にある動物園にした。東京都にあるとは思えないくらいデカイ動物園だな。まるでハイキングだ。酒とタバコでだいぶ病んでいるおじさんには結構辛い。宝石君は普段引きこもりのくせに、元気だなーー。やっぱ若さが違う。   「アイスーー!」    はい。はい。まるで日曜日のお父さんだ。言われた通り、売店でソフトクリームを買ってきて宝石君に渡した。   「あ、ライオンバスあるんだ! 乗りたい! 乗りたい!」    園内案内図を見て宝石君がはしゃいでる。ちょっとまて! 乗り合いはまずいんじゃないのか? ちっとも聞いてないなーーすげーー楽しそうだからいいけど。   「全然方向違うみたいだぞ。昼飯食ったらそっちに向かうか」   「やったーー!」    キャップ帽とサングラス、パーカーとデニムであのキラキラ感はだいぶ消してるからまあ大丈夫か……バスの中も窓際にして、俺が盾になればいいか。   「ラーメン食べたい! 味噌コーンバターラーメン。チャーシュー乗せて!」    また似合わないもの食べようとしてる。なんか庶民的なものばっか食べたがるんだよなーー撮影のためにキラキラしたものばかり食べていたから反動なのかも知れないけど、コンビニ飯も知らなかったし。宝石君の通っていた学校は私立の有名な進学校で金持ちが多い。お坊ちゃまだからコンビニとか使わなかったのかなーー? そういえば親はどうしてるんだろうか? 自分の子どもが殺されかかったのに訴えを起こさなかった親。正直、悪い方の想像しか出来ない。   「おいしーー! ラーメン食べてみたかったんだよね」    え? ラーメンも食べたことなかったの?   「初めて食べたのか?」   「こーゆーのはね。シェフに頼むと、なんか変に凝っちゃって違うのになっちゃうし」    どこまで坊ちゃんなんだ。成金だとばかり思ってたけど、元々のボンボンか?   「黒木さんは何食べてるの?」    何ってカツ丼だけど……これも知らないのか?   「食べるか?」   「食べる!」    小皿に取り分けて渡した。   「美味しい! 意外と甘いんだねー」    あれ以来宝石君の過去を掘り下げて調べてはいないけれど、怖いなーーなんかとんでもないものがまだまだ出てくるんじゃないだろうか……。  昼飯の後、ぷらぷら動物達を見ながらライオンバスの受付に行くと結構人が並んでいた。入園料の他に専用チケットを購入するらしい。そこそこ人がいるな。どうするかな? 一緒に並んだ方が安全か?   「ねーー猿見てていいー?」    宝石君が指さした場所に猿山があった。   「いいけど気をつけろよ。迷子になるなよ! 知らない人について行くなよ」   「ばっかじゃないの!」    外国では絶対やっちゃいけないフィンガーサインを俺に向けると、宝石君は駆け出して猿山に向かってしまった。ふつーーだな。普通の若い男の子だ。彼の人生はまだまだ長い。復讐なんて考えず自分の人生を大事にしてくれないだろうか。俺に出来ることならなんでも手助けする。そう言った提案をしていけないだろうか?    ふと彼の顔が浮かんだ。元気でいてくれるだろうか? 母親の田舎で暮らすと言っていた。俺が事件を取り上げたせいで、父親は仕事を失い、住む場所を追われ、両親を離婚までさせてしまった。便りが欲しいと連絡先を渡したがあれ以来音信不通だ。謝って済むことじゃないけど、どうか幸せに暮らしていてほしい。  チケットを購入して猿山の方に向かう。ライオンか、俺も檻の中にいるところしか見たことないな。迫力あるんだろうな。猿山の前に来ると、なんか人だかりが出来ていてざわざわしていた。   「……ちょっとーーまずいんじゃない?」   「しらねーーよ」    すれ違った若いカップルが逃げるようにその場を後にした。嫌な予感がする。   「どけーー!」    人だかりが出来ている場所を掻き分けて入り込むと宝石君が倒れていた。息苦しそうに口を開けて引き付けを起こしている。過呼吸だ!   「一回息を吸ってゆっくり吐き出せ。10秒だ。1、2、3……もう一度吸って……」  上体を起こして背中を摩りながら呼吸を促す。荒かった呼吸が少しづつ息がゆっくりになってきた。目の焦点もあってくる。   「大丈夫か?」    小さく頷いたが、まだ青ざめている宝石君を抱き上げる。助けもしないで、さっきからずっと携帯を向けている奴らが、すげーームカつくが無視して救護室に向かった。  ・・・・*・・・・*・・・・*・・・・    軽く診察してもらい特に異常はないから少し休憩してからお帰りくださいと救急室の看護士に促された。今日はこれで直帰だな。 「まだライオン見てないーーーー!」    ベットの上で横になりながら宝石君が恨めしそうにぐずってる。やっぱり一人にするのは危険だった。無事で良かったが俺が甘かった。   「また今度連れてきてやる。今日はもう帰るぞ」    「ちぇーーーーー!」   これはアレだな。  仕方がないが、やっぱやばいことになるだろうなーー。  反省しつつぐずる宝石君を乗せ帰路についた。

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