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第23話

「何、週末ラブラブデートしちゃってんですかーー?」    月曜日出社するなり、やっぱり神松に捕まった。宝石君が動物園で倒れた様子をあいつらがバンバンネットにあげたからだ。もちろんワイドショーでも流れてしまっている。俺の素性も割れてしまって、また編集部をパンクさせてしまっていた。   「すみません……」   「別にぼかぁ咎めてませんよーー! おかげで、うちはアナログもデジタルもバンバン売れに売れまくって、全く持ってウエルカムな状況です!」    その割には皮肉たっぷりな口調だけどな。   「近いうちにお前の過去も割れっぞ。ゆるくないね〜〜」    お手上げだとでも言うように、手のひらをぷらぷらさせながら神松は席に戻った。    ワイドショーでは彼の倒れた様子から、事件のPTSDからくる対人恐怖症だろうと、したり顔の精神科医が解説していてまた宝石君に同情を集めてしまっている。せっかく沈静化をはかっているのに、なに逆効果を発生させちゃってるんだ!   今回のことは宝石君の意図したことじゃないし、全面的に俺の責任だ……さらに俺の過去のことがバレたら、変に英雄視されて、もっと宝石君に追い風が吹くかもしれない。    あれから動画を撮ると言って聞かない宝石君を宥めて帰ってきたが、昨日は何か食べたんだろうか? 帰りに何か持っていくか。嫌がられるかもだけど、もう一回宝石君とちゃんと話がしたい。一応連絡を入れておくかと携帯を覗くと青柳君からラインが入っていた。   『お久しぶりです。黒木さんが壱哉といるところをテレビで見ました。彼と親しいんですね。お願いです。一度彼に会わせてもらえないでしょうか? どうしても彼に謝りたいんです。お願いします。返信待っています』       ・・・・*・・・・*・・・・*・・・・     「どうする?」    宝石君のマンションで彼からのメッセージを見せた。やっぱり知り合いなんだな。青白い顔で、さっきから押し黙ったままだ。   「無理に会うことはない。言いたいことがあるなら代わりにラインで返事しとくし」   「青柳から僕のこと聞いたんだ? 会ったんでしょ? どんな様子だった」   「……謝ってたよ。インタビュー内容も掲載していいって言ってた。罪に問われても仕方ないって。今、彼は介護の仕事をしている」    なんか彼を使って宝石君の気持ちを変えようとしているみたいで、いい気持ちはしないが、もともと友達だったって言うし、一対一で会えば分かり合えることもあるかもしれない。   「そうなんだ……」    あの進学校で大学にも行かず、介護職につくなんて珍しいんだろうな。その意味を宝石君も悟ったんだろう。   「……いいよ。会うよ」   「大丈夫か?」    とはいえ、加害者の一人と会うってことになる。また体調を崩すかもしれない。   「何心配してんの? 同級生に会うだけでしょ? ここに来て貰えばいいんじゃない?」    強がったように笑うが、穏やかそうには見えなかった。   「ねぇ動画撮ろうか? そしたらもっかいしようよ」   「もうやめよう。悪かった。こんなことを取引材料にするなんて俺は最低だ」    細い体。青白い顔。今にも決壊しそうな張り詰めた表情。満身創痍で痛々しい……こんな子ども相手に俺は何をやってるんだ?   「なんで謝るの? 僕からお願いしたんでしょ? それともやっぱ男とするのなんて趣味じゃない? こんなガリガリで傷だらけの体だから気分が乗らない?」   「そんな言い方をするのはやめろ。するのはいいよ。だけどもう対価はいらない」   「甘いね。そんなんじゃ救える命が救えないかもよ」   「それを考えるのはこっちの責任だ。お前にお願いするのは間違っていた」   「……まあ、いいや。じゃあしようよ」    そう言って、宝石君は俺に抱きついてきたが、冷たい体が震えているのがわかった。簡単じゃないんだ。他人がどんなに偉そうに正解を示したって彼の受けた本当の痛みが、わかるわけもないのに……。

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