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第5話
「やっと終わったーーーー!」
「随分饒舌でしたね。普段もあんな感じでいけるんじゃないですか?」
どんだけ注文してんだ。落ち着いた雰囲気のホテルのバーラウンジでこのテーブルだけ子どものお誕生日会みたいになっていた。お子ちゃまはホールケーキをツマミに白ワインをがぶ飲みしている。ちなみに俺は運転手だから飲めないが全く遠慮する様子はなかった。
ショップグリーン社から帰る途中でお台場のホテルに寄った。帰りに一緒に食事をするという条件で今回、山田を引っ張り出したからな。まぁこれくらいであの売り上げを叩き出せるなら安いものだが。
「無理無理ーーやだよーーほんと大変なんだよーーこうねーー下ろしてんの! 僕は役所高次。役所高次! って」
両手を上から下にバタバタさせながら山田は不満を口にした。俳優になりきっての演技なのか? どんな脳の回路になってんだか、ほんと理解しかねる。
「あ! ごめん〜〜」
言うと山田は口を押さえた。口調が戻っているのにやっと気づいたな。
「いいですよ。今はプライベートですし」
「やったーー! やっぱ楽チーーン!」
そんなに大変な事なのか? ホント理解し難い。
大きな窓から見える景色は夕焼けでオレンジ色に染まっている。そろそろ日が落ちるな。しかしなかなかの1日だった。大漁の船で帰港する漁師のような清々しい気分だ。ショップグリーン社からの正式な発注量と損益計算が楽しみ過ぎる。
山田もまあ良くやったし、ここは褒めるところだろうな……。
「結果は上々でしたね。お疲れ様でした」
「いっぱい売れたみたいで良かったねーーホント美味しいもんねーーコラーゲンもたっぷりだしみんなお肌ツルツルになっちゃうねーー」
山田はニコニコと嬉しそうだ。使いようってやつだな。次回も出演させるか。
「ねーー凛ちゃん。僕のどこがダメなの?」
しこたま食べて飲んで気分良さそうにまたアレを聞いてきた。こればっかりはホントにどうしたもんかだな。
「ありすぎて、言ったら立ち直れなくなりますよ」
「えーーーーそんなにあるの? 直すーー! 全部直すからなんでも言って!」
あからさまに驚いた顔で食べかけていたチキンをぼとりと皿に落とした。
「冗談ですよ。良い悪いではありません。私の恋愛対象は女性なので元々無理なんです。社長の口調や服装についての改善をそれと引き換え条件にするようなことを言ってしまって申し訳ありませんでした。改めてはっきり申し上げますが可能性は0なので諦めていただきたいです」
山田は固まったまま自分をジッと見ている。あーーまた喚いて、大声出すかもな。しかし致し方無い。これ以上のことは言いようがない。
「……わかった」
予想外? そうひとこと言うと、大騒ぎするわけでもなく、黙り込むわけでもなく、そのまま表情を崩さず普通に会話しながら食事を続けている。
普通で平和なのにものすごい違和感で気持ち悪い。まるでさっきの通販番組を見ているみたいだ。
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