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第6話
あれからずっと山田はあのままだ。ネコを被り続けている。可能性は0だと言ったのに、自分の言ったことを頑なに守っている。気持ちには応えられないのに、強制させているみたいで気分が悪い。しかし元に戻していいですよというのもなんか違う気がするし。
「すみませんが本日は早退させていただきます。来客も入れておりませんし、今日の仕事に関する引き継ぎはしてありますのでよろしくお願いしますね」
「わかりました」
山田はただ返事をしているだけだ。なのに、なんでこんな気分にならなきゃならないんだ。
* * *
「昨日お見合いだったって本当?」
珍しく自分より早く出社していた山田が、顔を合わすなり詰め寄ってきた。
「は? 誰かに聞いたんですか?」
なんで知ってるんだ? そうだ。総務の石巻にだけ、緊急時に連絡が取れるように念の為、教えておいたんだった。
「付き合いです。父の恩師からの話で断りきれなくて。というか私がプライベートで何をしていようと社長には関係ないでしょう?」
言うと山田の表情がすっと変わる。
「……そうですね」
くそ。まただ。なんで俺がこんな負い目を感じなくちゃならないんだ!
「そうです。それに今就業中なので仕事以外の話はお控え下さい」
山田は黙ったまま席に戻った。気に入らないなら前みたいにギャーギャー騒げばいいだろう? なんで俺がこんなに罪悪感を感じなくてはならないんだ。
***
「もうダメーーーー」
山田が泣きながら机に沈没している。
「見合いだよーー見合い。凛ちゃん結婚しちゃうかもなんだよーー!!!」
「付き合いだって言ってたんだろ?」
「会ってみたら、すっごい美人で清楚で、頭も良くて気がきいていて、すっごいおっぱい大きい女性だったら、もうダメでしょーー?」
八魂、巨乳好きなのかな? 大の男がずっと泣いてるし。山田がこんなに落ちているところ初めて見た。
「わかってるんだけどさーーこれから凛ちゃんに彼女とか紹介されて、結婚式呼ばれちゃったり子どもとか見せられるの耐えられそうもないーー会社辞めてもいい?」
「山田!?」
すげーー本気なんだな。なんか絶対無理とか思ってて悪かったな。しかし、どーしてやったらいいかわからない。八魂の気持ちも分かるし。
とりあえず酒だな。山田の好きな白ワインを冷蔵庫から持ってきて開けた。山田、底なしなんだよなーー明日休みで良かったけど気がすむまで付き合うの大変そう。
それに、さっきから背中に感じる桐生の視線がスッゲー痛くて振り向けない。
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