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第1話 アイコさん(2)

 アイコさんとは『Floating Dreams』というスマホゲームで知り合った(以降 ”FD” と省略)。彼女は俺のフレンドの一人だ。会ったときは俺と同じレベルだったが、キルレ(一試合当たりのキル数)13というこのゲームでは驚異の数字を誇るため、あっという間にカンストした。キルレなんてよっぽど上手くても5か6がせいぜいなのに。俺なんか1.7しかない。  もともとゲームのたぐいに関心があるほうじゃなかった。小中の友達がテレビやカードのゲームに大騒ぎしていても、俺はその騒ぐ友人たちを眺める側だったのだ。ときどき「瑞貴もやれよ」とコントローラーを渡されるが、画面のキャラクターは思うように動いてくれず何をどうすべきかわからず、うろたえてるうちにザコキャラにやられたり不慮の事故で死んでしまう。楽しんでる友人たちの様子を見守るのが俺のゲームだった。高校を卒業すると一応収入が得られるようになったので自分用のスマホを買ったが、アプリゲームをやろうとは思わなかった。  気が変わったきっかけは偶然みたいなもんだった。俺はネットで農家のブログを作物を問わず読むのが好きなのだが、ホームページに出てくる広告の一つにふと心惹かれた。ゲームアプリの広告。現実みたいにリアル、とまではいかないが、現実のように作り込まれている。クリックしてみると公式ホームページにつながり、映画のようなキービジュアルと実際の動作画面が出てきた。アニメとかデジタルなものに耐性がなかった俺は、それだけで「へええ~……」と圧倒されて声が出てしまったのだ。しかもこれが無料だという。何のボランティアなんだ。社員はちゃんと給料もらってんのか?  ちょっとやってみようかなという気がだんだんしてきて、そのままスマホにアプリをダウンロードした。音楽もダウンロードしたことないのにアプリを入れるとか至難の業に思われたが、案外あっさり手元に落ちてきた。自分が思っているより俺は若者だったのかもしれない。

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