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第1話(4)

 しかし一人でやるのはなにしろ孤独だ。倒されたら容赦なくそれで終わる。誰も「大丈夫か!」と駆けつけてくれないし、ダウンしてから死ぬまでの時間がわびしく悲しい。ある程度レベルが上がったこともあり、ついに俺はスクアドに行きだした。その中で出会ったのがアイコさんだった。  アイコさんはダークグレーの長い髪をしたクールな見た目の女性だ。というか、そういうアバターの人。課金はしているようだが格好は比較的地味だ。他の女子キャラは下着かと思うような露出度高めの衣装とか、ばあちゃんが「あれ何?」と俺におびえて聞いてきそうな異様に派手な格好をさせている。肌が緑、なんてこともある。「こんな目立つ格好して狙われても、私撃退する自信あるんだからね!」というアピールも兼ねているわけだ。  初対面の一試合目は何かしらんがいつのまにか一位になってた、という感じで終わったが、二試合目で彼女の異様な上手さに気がついた。銃声を聞くやいなや素早く射線を切り、キャラコンを駆使して敵どもを一匹ずつ潰す。あるいはダニみたいに小さい遠くの敵をいち早く見つけ、スナイパーライフルで次々に射殺する。そして俺がヘタで不注意なことを察してか、道を先に行って安全な移動ルートを確保してくれる。すべてが同じランク帯の人間と思えない振る舞いだった。  けれどそれらを上回るこの人の立派なところは、ちゃんとお礼が言えるところだなと思った。俺が倒した敵なのにさっさといい物資を取って知らん顔する奴とか、ヘリが落としていく補給物資を独り占めする奴とかが珍しくない中、アイコさんは誰かに何かしてもらうと必ず『”ありがとう”』と言う。仲間のHPが落ちていることに気付くと回復物資を「どうぞ」という感じで渡す。なんて出来た人だ。  フレンド申請を受けることはあっても出したことはなかったが、こんないい人と会うことは二度とないかもしれないと思い、勇気を奮い起こして申請を出した。だから受けてくれたときはすんげえうれしかった。さっそく彼女のデータを拝見すると、キル数が異常で二度見どころか五度見はした。  ここまで上手な人をおいそれとグダグダ試合に誘ったら間違いなく迷惑をかけると思い、フレンド欄に彼女がいるだけで満足する日々だったが、先日『”よかったらご一緒しませんか?”』と誘われて以来、俺とアイコさんは二、三日に一度戦場に出る仲になっている。

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