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第2話 トマトの男(2)

 アイコさんの戦闘は慎重かつ大胆だ。  銃声が赤く表示されるほど近くで激しく撃ち合ってると俺はそれだけでうろたえるが、アイコさんは迷いなく突っ込んでいく。彼女にとって銃声は「気をつけろ、敵がいる」ではなく、「ここに倒せそうな獲物がいますよ~」の合図なのだ。  俺たちの存在に気付きもしてない無関係な銃撃戦に乱入し、左右の連中を全滅させることもよくある。スゲエ。一度真似してやってみた(ソロ戦で)が、案の定やられてしまった。彼女がダウンするのは仲間の援護にかけずり回り、さらに周囲を運悪く囲まれたときぐらいだ。それでも八割の確率で勝つが。ごくたまに武器ガチャに負けて開始早々死ぬときもあるらしい。  グレネードを投げまくるのも特徴だと思う。普通は牽制とか、まあ運良く当たったらいいなぐらいの気持ちで放るものだが、マジで殺す気でガンガン投げる。そして実際に二階にこもっていた二人組をこっぱみじんにしたことがある。隣で見てた俺は「よくあそこに誰か潜んでるとわかったな」と舌を巻くばかりだった。無類のグレネード好きとわかってからは俺も心がけて拾い、彼女が投げてる隣に落としたりして積極的に貢ぐようにしている。 『”トマトさんは毎日何時に寝てるんですか?”』  試合中、二人で次の安地が決まるまで建物の二階に伏せていたとき、チャットで話しかけられた。俺の正面に伏せているアイコさんは武骨な戦闘服をまとい、こちらにマシンガンを向けている。は、早く何か返さねえと。焦るあまり入力個所を過剰につついてしまい、コメント欄が開いたり閉じたりした。 「”十時半です。”」 『”早いんですね”』  早いんですね、だって。そうか? ってことはアイコさんはもっと遅いのか。何時に寝てるんですか? と今度はこちらが尋ねようとすると、グレネードの接近マークが近付いてきて爆発した。 「えっ?!」  しまった、つい入力に神経がいってしまった。箱詰めにされた俺にかわり、画面がアイコさん視点に切り替わる。崖上から駆けおりてくる敵は二手に分かれて挟み撃ちにするつもりのようだ。アイコさんは素早く俺のデータを回収するとまず下で待ち構えている一人に窓からマシンガンを撃ち込み、階段を上がってくるもう一人の背後に回るためいったん窓から出て外の梁を伝って外周を移動し、別の窓からそいつの背中に容赦なく乱射した。スゲエ。そんなとこ歩けるなんて知らなかった。  ところがこの騒ぎを聞きつけて通りすがりのジープが寄ってきてしまった。それだけじゃなく反対方向からも車が来てる。まさしく食うか食われるかの世界、修羅場の予感しかしねえ。新しい襲撃者たちから銃弾を浴びせられてHPを削られながらも物陰に隠れて射線を切り、別の建物に逃げ込みつつアドレナリンを飲んでHPを回復さらに増強、そうしている合間にも敵の位置を把握し、向かいの家の窓から一瞬見えた敵の頭をアサルトライフルで撃ち抜いた。相方にはグレネードをお見舞い。車から降りてきた別チームの二人が一気に階段を駆け上がってくると、そいつらの姿が見えたところでいきなり伏せてライフルの乱れ撃ちで決着をつけた。敵に回したくねえ~。

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