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第3話 猛者あらわる(1)

 晩飯をすませたあとの家の中は静かだ。ばあちゃんは婦人部、親父はトマト部会の集まりにそれぞれ行っている。集まりと言うともっともらしいが、要は飲み会だ。婦人部はスナックへカラオケを歌いに行き、トマト部会は居酒屋で酒を飲む。月に一度の気晴らしだ。  親父は酒を飲まないので他の人を自宅へ送り届けつつ自力で帰ってこられるが、ばあちゃんはあとで俺が迎えに行く手筈になっている。ミラーボールの下で酒を飲み仲間のばあちゃんたちと声を張り上げて歌いしゃべってきたばあちゃんは、いつも楽しそうにスナックから出てくる。  俺はテレビを熱心に見るほうではないので、バラエティー番組が映っててもいま一つ身が入らない。BGMとして流しながらテーブルに置いているスマホを手に取った。  このスマホは親父に買え買えとせかされてしぶしぶ買った。「若い連中は全員持ってるぞ」「遅れをとるんじゃない」「俺でも持ってる」とか言われて。無難な黒にしたが、金属とガラスの具合がなかなかカッコいい。ばあちゃんが初めてこれを見たとき「板チョコぐらいあるね」と驚いていたが、俺は背が高いので手も大きく、持っても使いにくさは感じない。  FDをつついて開ける。もう気を抜くとアプリを開いてしまう状態だ。これが高校のとき体育館で聞いた『ゲーム中毒』じゃないか? しかし中毒と自覚できるうちはまだ中毒程度はそれほどでもないのかもしれない。フレンド一覧のアイコさんのアイコンにさっきはなかった赤い印がついている。何らかのアクションがあったのだ。赤印をつつくとチャット欄が開いた。……俺に伝言が残されている……! 『”今夜ルームしませんか?”』 『”カード買ったんで”』 『”いつもの時間に待ってます”』 『”ルームナンバーは0726”』 『”強制じゃないから来れなくても大丈夫です”』  ルーム?! ルームって何だ、とあわててネットで調べると、ナンバーを知ってる人間だけが入れるまさしく部屋のようなモードだった。場所はいつもの戦場だが、安地の縮まり具合や銃器の種類、botの有無など好きなように設定出来て制限時間一時間。友達だけで集まって遊んだり、大会の会場として使ったりするらしい。  意味もなく立ったり座ったりした。……もしかして『”もうトマトの話やめてもらえます?”』とか注意されるんだろうか。いや、だったらチャットでひと言言えば済む話だよな。じゃあフレンド一同を集めて『”今日は私のために集まってくれてありがとう! 今からみんなで殺し合いをしまーす”』という流れだろうか。そうかもしれない。怖えよ、どう考えたって彼女のフレンドの中で俺が一番弱いだろ。ライオンの群れにもてあそばれる草食動物のような気持ちになるに決まってる。  とりあえずばあちゃんだ。迎えに行くのが難しくなった旨を伝え、親父にも「”悪いけどばあちゃん拾って帰ってきて。”」と連絡した。楽しんでるところ申し訳ないが、こっちは人生の一大事だ。すぐに「”問題なし”」と返ってきたので、俺はまず身を清めるため風呂に入った。

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