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第3話 猛者あらわる(3)
やばい、死にたくない!! 俺は一目散に近くの建物に突っ込み、スナイパーライフルと銃弾を拾った。スナにもいろいろあるのでどれがこの場の正解かわからないが、とりあえず一番威力があるものを選ぶ。エイムを安定させるためのグリップ、リロードの時間を短縮するためのマガジン、そして絶対外せない専用スコープ。スナイパーライフルは射程距離が長く威力抜群だが、弾の装填に時間がかかるためすぐに次の一発が発射出来ない。撃てば撃つほどカウンターパンチを食らう危険性が高まるので、そう何度もだらだらとぶっ放すものじゃないのだ。防具のたぐいがまったく落ちてないのはヘッドショット一発でヘルメットの意味などなくなるからだろう。せめて銃の支度だけは万全に整えないと。
はっきり言って俺はスナイパーライフルがヘタだ。もたもたとスコープを覗き、相手と「せーの」で息を合わせないと狙っても当たらない。距離に比例して偏差が大きくなるので、慣れてないと標的を中心にとらえても当てること自体が難しい武器なのだ。親切に頭をさし出してじっとしてくれる敵はまずいないので、スナイパーライフルでヘッドショットなんて偉業、俺はまだ一回も経験してない。
『じゃあスタートォー』
のんびりした合図から始まった練習は、これ以上ないほどの過酷さだった。離れたところからお互いを目視なりスコープ越しなりで探して撃ち合うのだが、もう俺にはどこから撃たれてるのか全然わからない。気がついたら頭から血を噴き出させて「ウッ!!」という音声と共に終わっている。何回見たよこの映像、というくらい何回も倒れた。生き返るたび『いーち。にー』と数えられてあたふた隠れる。時々建物から出て『ほらほらこっちー。見て見てぇー』と俺のためにわざわざ屋外をわかりやすく走ってくれるのだが、それすら仕留められないという体たらく。
『スナ撃つときはちゃんと隠れて。トマトくん、自分が思ってるより丸見えになってるから』
『銃声マーク出て居場所バレてんのに、いつまでもその場でモタモタしてたらやられんでしょ。少なくとも三発撃ってダメだったらすぐ離れて』
『みんなが隠れそうなとこに隠れてる。工夫必要』
『悠長にスコープ覗かない! 覗いたと同時に発砲する勢いで!』
『スコープ越しにどっか見てんの見えてるから(直後ヘッドショットでやられる)』
『どこ狙ってんだ、お前が撃って弾こっちに届くときは俺はもう前に進んでんだよ! 偏差知らねえのか』
『お前さてはスコープの感度調整してねえな?! 射撃場行け!!』
『テメー人の話聞いてねえだろ!! 俺がどこに逃げるか予測して撃てっつってんだろうが!!』
『テメーはスナがマジでクソだな!!』
この一時間のあいだに俺の呼び方は『トマトさん』『トマトくん』から『お前』『テメー』へと急降下した。もう泣きそう。あの『”頑張りましょう”』『”大丈夫ですか?”』『”気にしないで”』という優しい言葉のかげで、じつは「あっさり死にやがってこのヘタクソが!!」とか俺を罵りまくっていたのかもしれないと思うと、戦慄すら覚えた。
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