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第3話(4)

 ようやくルームの使用時間が終わり、地獄から解放された。待機画面で俺のアバターはいつも通り堂々と立って胸板厚くアサルトライフルなど構えているが、もし現実をそのまま反映していたらゼイゼイと情けなく地面に這いつくばっていたろう。 「あ、ありがとうございました……」 『お疲れさん』 「練習します。射撃場行きます。今までイライラさせてすんませんでした」 『やっとわかったか。じゃあな』  アイコさんのアバターがふっと消えた。つらかった……。生まれてこのかた一番つらい一時間だったかもしれない。あんな容赦ない人だったとは。いや容赦ないのは知ってたけど、そういう方向の容赦なさもあるとは思わなかった。声は男にしては低さがなかったが、怒ると猛者感が爆発してとにかくおびえるしかなかった。  ホーム画面に戻るとメールのアイコンに赤い印がついている。何か来てんな。運営からの定期連絡だろうか。はあ……とひらいてみると突然画面が輝き、アサルトライフルの超豪華スキンが姿を現した。誰あろうアイコさんからのプレゼント。 「おおお……」  外見を変えたところで銃の性能が向上するわけじゃないが、こういう強烈なカラーの銃を持っているのは重課金者か猛者と相場が決まっている。手間取りながらもスキンの変更をすると、ホーム画面で俺の構えている銃が何かよくわからないほどスゴいことになった。赤やら青やらのオーラをまとい、格好は無課金なのに銃だけが物凄い。獲得した覚えはまったくないが、間違いなく今日から俺のだ。 『”M4は初心者でも扱いやすく、エイムの安定性機動力威力すべての要素をバランスよく兼ね備えた中長距離銃です。まずはこれを自由に使いこなせるようになってください”』  というお言葉までついている。これからは俺がM4を拾うだけで自動的にこのカラーに変身するわけだ。目立ってしょうがなくもあるが、積極的に拾って見せびらかしたくなるのもまた事実。  ありがとうございます、アイコさん。さっきあんなに怒鳴られたのに、俺の脳裏で『”頑張ってください”』といつものアイコさんが微笑んでいる。男だったのは意外だが、そんなことどうでもよくなるくらいあの強さにはやはりシビれる。言葉キツいけど全部もっともな意見だったし。  とりあえず今から射撃場に行こう。射撃場はすべての武器とアタッチメントが揃い標的まで用意されているという、簡単に言えば銃の練習場だ。どんなかなと一回覗いて十秒で出て以来足を向けなかったが、今日からコツコツ通って頑張ろう。まずはスコープの感度を自分に合わせて調整するところからだ。  でもよかったら次会ったときは、もとの文字入力での会話に戻してほしいです。アイコさん。

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