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第4話(3)

「あの、まだ日にちわかんないけど、近いうち遊びに行ってもいいかな」  晩メシが佳境を過ぎた頃そう言うと、親父とばあちゃんが顔を上げてにこやかに俺を見てきた。 「あら~。珍しい」 「瑞貴が遊びに行くなんて久しぶりだな。どこ行くんだ?」 「ちょっと遠いんだけど、F市に」  答えると、石像と化したかのように二人が俺を凝視したまま固まった。 「……一泊か?」 「いや、日帰り」 「どうしたの、瑞貴。何か欲しいものあるの。必要なものがあるの?」 「そういうわけじゃないけど」 「誰か友達と行くのか」 「俺一人。……ダメかな」 「ダメなんてそんなこと!」  二人して箸を握った手をブンブン振った。 「でも何で、いきなりそんな。一人で行こうなんて」 「あっちのほうに友達が出来て、その人が『よかったら会おう』って」 「友達? どうやって知り合ったんだ」 「あの……ゲームで。いつもやってるネットのゲームで」 「その人大丈夫? いくつぐらいの人?」 「二十三だって。たぶん会社勤めしてる。――こんなことでもないと、当分行くことなさそうだし。忙しくなる前に行ってみようかなって。だから……」  聞かれるまま説明すると、目の前の二つの顔がだんだん明るくなっていった。 「そうか……瑞貴がなァ」 「あんたも一人で遠出出来るようになったんだね」 「友達が増えてよかったじゃないか」 「うん」 「じゃ、ゴハン食べちゃおうか。終わったら大福あるよ」 「お母さん最近大福好きだねえ」  三人で静かに食事を続けた。  じつは社交辞令だったんじゃないか、ホントに「遊びに行きたいけど何日ならいいですか」と話を進めたら、『マジで来んの? マジで?』と引かれるんじゃないかと思ったが、アイコさんは『俺の携帯』と言ってすぐに自分の電話番号を教えてくれた。メッセージに並ぶ数字の並びを見たときは手が震えた。こ、こんなあっさり個人情報教えてくれるとか、俺でも心配になるレベルで気を許し過ぎだろう。高校のとき体育館で「IT社会の危険性について」の授業を受けなかったのか? 先生に「とくに男子。ネットで近付いてくるかわいい女子は十中八九、中身男だから(真実だった)」とか注意されなかったのか。俺が人畜無害な人間じゃなかったらどうするんだ。  とにかくそれで連絡を取り合い、日にちを合わせ、待ち合わせの時間と場所を決めた。来週日曜午前十一時頃、H駅の中央改札口。改札から出たらすぐアイコさんに電話する。

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