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第6話(1)

 空を切り開くように移動する軍用ヘリはすぐ隣にいる奴の話し声も聞こえないほどうるさいが、そういうものなのでしょうがない。見晴らし良好、風も強くはないので困難なく目標地点にたどり着けるだろう。  前方にピンが見えてきた。今からあそこに向かってダイブする。いかに早く、正確に着地出来るかがポイントだ。人より着地が遅れればいい武器を先に拾われてしまう。  目標と航路の交点でよいしょと降りるのではなく、およそ1200メートル手前でヘリを離れるのがベストだ。降下しつつ移動することで最短時間で着地出来る。我ながらベストタイミングで空中に身を投げると、うっすら広がる雲の下に広大な大地が見えた。  猛スピードで落下しつつ、手足を広げたり体の向きを変えたりして方角と距離をコントロールする。地表が近付いてきたことを探知したパラシュートが大きな音を立てて開いた。ガクンという衝撃と共に俺の体は宙を漂いはじめる。ここでも油断は出来ない。視認してなかった敵がいち早く武器を手にし、地上から狙い撃ちしてくる可能性がないとは言いきれないからだ。そのときは方向を変えて、争わず逃げるなどの判断が必要になる。  さいわい邪魔は入らなかったので、そのままゆっくりとピンに向かって進んでいった。ピンが立っているのは住宅地でもなければ工場でもない、ただの小高い丘だ。何で? これじゃ武器が拾えないじゃないか。誰だよここ指定したの。とまどっているとピンの刺さっている場所に誰かが立っているのに気がついた。「おーい」と笑顔で俺に手を振っている。俺のテンションはたちまち上がった。 「アイコさーん」  俺はいつもの迷彩柄の戦闘服だが、アイコさんはこないだ会ったとき来ていたTシャツに紺のカーディガンという服装だった。しかもアバターじゃない、生身のほうだ。バサッという音と共にうまいこと目の前の地面に降り立つ。 「よう、お疲れ。だいぶうまくなったんじゃない?」 「ご指導のおかげです」 「これ買っといたよ。一緒に食おうと思って」  アイコさんがバケツサイズのケンタッキーを出して見せてくれた。小学生のように「ヤッター」と両手を上げて喜ぶ俺。アイコさんとケンタッキー。俺の好きなものが二つも揃っている。  そのあと地面に座り、二人でケンタッキーを食べた。柔らかい草に覆われているので尻の下はフカフカといい気持ちだし、見晴らしは最高。目の前に広がる平原では車両が猛スピードで行きかい、修羅のような銃撃戦を繰り広げているが、その阿鼻叫喚は小さくしか見えないし聞こえないので俺たちの心は穏やかだった。  肉を食いきったあとの骨を放ると、何かが近付いてきた。犬だ。いや、FDの世界に犬はいないので、犬じゃなくガチャで出てくる犬のマスクをかぶったbotだった。首から上が犬で、首から下は戦闘服を着たソルジャー。四つん這いでゆっくりと近付いてきて骨をかじる。 「いい天気ですね」  そう言うと、アイコさんは「そだね」とにっこり笑った。すっげえ幸せだった。これがいわゆるデートってやつなのかもしれない。

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