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第6話(5)

 スクアドでもないのに、アイコさんはしゃべらなくなった。まわりの様子を口に出したり、俺に指示することもない。移動しながら『今日晩メシ何食べた?』とか『こないだ電車で信じらんねえヤツに会ってよー』といった雑談もしてくるのだが、それもない。もしかして考えてんのかな、『ゲーム出来ないんじゃフレンドの意味ないな。もう切るか』みたいなことを。  数軒が野っぱらにまとまって建っている家の物資をひと通りあさり、何となく集合した。次はどこに行くんだろう。しゃがんだままのアイコさんからのご指示を待つ。まわりに物資が散らかる表示が出ないのでリュック内を整理しているのでもなく、純粋な沈黙のようだ。もしかして回線トラブルか? 「アイコさん。落ちました?」  声をかけてみる。するとアイコさんが構えていたAKをしまい、俺の方へしゃがんだまま近付いてきた。あんまりぐいぐいと容赦なく接近して来たので、俺の視界がおかしなことになった。アバターごしに景色が透けて見え、でもアバターの外殻が残骸のように残っている。あんまり重なり合うとこうなるらしい。アイコさんが離れたので室内の風景が元に戻った。 「どうしたんですか?」 『何が?』 「えらく近付いてきたから」 『べつに。どうもしない』 「今の何です?」 『頭突き』 「頭突き?」 『そう。頭突き』  静かにムカついてんのかな。いつもみたいに言いたいこと言えばいいのに。目の前のアイコさんを見つめるがアバターは無表情で、その仮面の奥で彼が何を考えているかはわからなかった。 『なあ、忙しくなる前にもっぺん会える?』

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