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第7話(1)

 五月も中旬になると雨の日が増えてくる。昨夜も雨が降り、それが朝になっても続いていたので軽くガッカリした。せっかく今日はアイコさんと会える日なのに。天気予報が当たるのは当然っちゃ当然なんだけど。  しかし雨という邪魔が入った程度では俺のやる気は削がれない。むしろあっちが「あ~雨降ってる~。めんどくせえ~」「足元お悪いじゃ~ん」という理由で中止を言い渡してこないかが心配だ。この時間になっても連絡がないってことは雨天決行と考えていいのか?  フロントガラスに小粒の雨がくっついてはワイパーで押しやられていく。そこまでの降りじゃないが、空はだいぶ曇っていてやや肌寒くもあった。前回は彼の住むF市で会ったが、今回はお互いの居住区の中間地点で落ち合うことにした。斜めに突っ切るようにして山に分け入り、道なき道を走れば早く着けるけど、不意の土砂崩れとかイノシシのぶち当たりとかに巻き込まれたくないのでおとなしく国道を行くことにする。高速使って順調に進んでも一時間半はかかりそうだ。  俺はそのT市とやらに行ったことがない。「そういや聞いたことあるな」ぐらいの認識なので、普通にただ住むためだけの街なんだろう。ド田舎在住の俺が生意気な口きくのも何だが、そこでどうやって楽しいひと時を過ごせばいいのか。  俺にはアイコさんを飽きさせないだけのトーク力がない。何やって時間をつないだらいいんだ? そんなスキル俺に期待してないかもしれないが、「また会いたい」と思ってもらわないと今後の俺の精神状態にかかわるのだ。鬱々とした気持ちで精魂込めたトマトは作れない。俺の脳裏にふと昨夜の会話がよみがえる。 「車で? 今度は車で行けばいいんですか。アイコさんも車で来ます?」 『いいや、俺免許持ってるけど運転しないんだ。車も持ってねえし。だから電車で行く』 「それでどうやって生活してるんですか」 『生活?』 「車なかったらどこにも行けないでしょう。歩きだとコンビニ往復するだけで二時間以上かかるくないですか」 『どういう環境で暮らしてんだよ。お前が想像してるよりこっちは何でも近くに揃ってるし、交通網も整ってんの。車持ってると維持費とか保険とか駐車場代とかいるじゃん。おまけに常日頃からガソリン食わせなきゃなんねえし』 「駐車場代?」 『マンションの駐車場は親が使ってるから、車持ったら近くに借りないといけないんだよ。月二万くらいじゃねえかな』 「にっ……」  二万って結構な額だな。この辺だったら古くて狭い一部屋なら借りられるぐらいの金額だ。F市とこっちとじゃ、生活の前提がいちいち違うらしい。俺は家の駐車場のこととか考えたことねえし、どこのお宅でも車はその辺の適当なスペースにガッと突っ込んどくもんだ。 『だから瑞貴が車乗ってきてよ。んで俺を乗せて。そしたら自由に動けるだろ?』  そういうことならやぶさかじゃない。待ち合わせ場所からはアイコさんが案内・指示してくれるらしいので、俺はそれに従って安全運転してればいいわけだ。

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