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第7話 雨の日のデート(4)

「アイコさんって、やっぱ自分のアバターって自分に似せたんですか?」  二人で並んで店内を歩きながら聞いた。 「何で?」 「だってそっくりだから。初めてこの実物見たとき思いましたもん。『同じじゃん!』って」 「へえ、そう。あれって自分じゃなくて姉ちゃんに似せたんだよ」 「姉ちゃん?」 「俺の姉ちゃん。三つ上でもう嫁に行ったんだけど、素体がもともと姉ちゃんに似てたから、加工が簡単だったんだよな。やっぱ親しみもてたほうがいいだろ? 男キャラより女キャラのほうが衣装凝ってるし」 「そんな理由……」 「自分に似てるとか思ったことなかったわ」  いや、だいぶそっくりですよ。ってことは、この人に瓜二つの女性がこの世に存在するってことか。そのお姉さんも旦那さんをちょっとしたことで叱責し、サバイバルナイフで喝を入れたり、疲れた旦那さんの前に「ほらよ」と回復アイテムを放り捨てたりするんだろうか。アイコって名前も母親のをつけたって言ってたし、家族仲がいいんだろうな。 「きょうだい二人ですか?」 「三人。俺末っ子なんだ。一番上に兄ちゃんがいる。こっちは小学生の子供がいる」 「へえぇ~…………」 「お前兄弟は?」 「いないです。一人っ子です」 「下に弟とかいそうな感じしたけど違うんだ」 「そうですね。うち、母親が早くに死んだんですよ。俺が二歳のときだったんで、兄弟とか出来る間もなかったんじゃないですか」 「えっ」  アイコさんは足を止めて俺を見上げた。 「事故?」 「病気です。ガンだったらしいです。若かったんで、まさかガンだと誰も思わなかったみたいで」  最初は背中が痛いと言ってたそうだ。小児科で横綱とあだ名がつくほどデカかった俺を抱っこしたり、慣れない農作業に苦労していたので、きっと母本人もそのせいだと信じ込んでいたろう。鍼とか整体に通ってもなかなか良くならないのでしぶしぶ病院へ行くと、そう宣告された。若かったから進行も早かった。  写真で見て顔を知ってるだけで、俺には母の記憶がない。最初から家族構成は父と祖母の三人だと思っていたから、よその家と比べて寂しいと感じたこともない。二人とも母の思い出話を聞かせてくれるので知識として母を知っているが、かつてそういう人がいたという実感はほとんどなかった。  ただ、最近は若くして子供を置いて亡くならざるを得なかった無念をぼんやり考えることがある。あと六年で、俺は母の享年と並ぶ歳になるのだ。そのとき俺は何を感じるのだろう。アイコさんが静かに言った。 「そっか。お前の家、みんな頑張ったな」 「俺は頑張ってないです。親父とばあちゃんは頑張ったと思うけど、俺は普通に暮らしてただけです」  アイコさんが急に元気をなくしたように見えて、俺は母について話したことを後悔した。そりゃ聞きたくねえよな、他人のこんな話。質問されたことに答えただけなんだけど、この人はそんなつもりで話振ったんじゃないだろうし。  俺は口下手で不器用なので、こっからどうやって元の流れに戻せばいいのかわからない。甘いもんでも買って渡したら気分が直るんだろうか。そういうことでもない気もするが。

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