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第2話

まぁ、どんなに願ったって薬師寺くんにはなれないからいいけどね。 そこで女子高生達の会話を思い出した。 あっ、そうだ…俺も本屋に用があったんだ。 本屋がある道をちょっと小走りで歩いていると、前から柄が悪そうな男達が歩いてるのが見えた。 あんな感じに怖そうな顔をしていたら俺もやられっぱなしじゃなく反撃出来るんじゃないかな? まじまじ見すぎたのか、目付きが悪いリーダーっぽい男と目が合い物凄い顔で睨まれた。 そうだ、俺…こんな見た目してるから絡まれるんだった!! 急いで本屋に逃げ込むために走った。 不良は学校と違うから容赦ないから怖い。 やっぱり普通が一番だと思いながら涙目になっていると路地裏に入っていった不良らしき悲鳴が聞こえた。 なにっ!?なんか怖くなったからそのまま本屋の中に入っていった。 そういえばあの黒の学ラン、もしかして南高の学ラン…じゃないよね? この辺じゃ有名な噂があるのをまだ仲が良かった時に潤から聞いた。 通称南高という不良高校には伝説の魔王がいるらしい。 売られた喧嘩は絶対に負けず、病院送りになった人も何人か… 容姿はその辺の芸能人が劣るほどいいらしく、一目で分かるらしい。 もしそんな人を見かけたら今みたいに全速力で逃げよう…逃げ足には自信があるが俺より早かったらどうしよう… そんなこんなでやっと本屋に着き目当てのものを手に取る。 たとえオタクと呼ばれようとも俺の人生の中で一番の楽しみは止められない。 俺が手に取ったのか大人気アイドルグループのリーダーのAIちゃんの写真集だった。 俺は現役高校生で超お嬢様学校に通うAIちゃんの大ファンだった。 オタクがなんだ!アイドル好きでなんだ!これがあるから俺は生きていける!! 学校であった事なんて綺麗さっぱり忘れてAIちゃんの写真集を抱えてスキップ気分で家に急いだ。 この後俺の人生を大きく変える出来事が待ち受けてるとは… 「母さんただいまー」 「おかえり遥、アンタに封筒届いてるわよ」 この時の俺は思ってもみなかった。 「ひっ、ひぇぇ~!?!?」 自室で写真集を読む前に封筒を開けて中身を取り出し驚いて封筒の中身ごと落として、すぐに気付いて拾う。 俺の手には長年夢見てお小遣いでちまちま応募していつか行けたらいいなぁ~と思ってたAIちゃんのライブコンサートのチケットがあった。 実際チケット買うのは競争率が激しくて俺なんか無理だと諦めてAIちゃんが載ってる雑誌にあるプレゼント応募でライブチケットが毎回あるから祈りを込めながらハガキを書いていて、もう何回送ったか分からないがやっと当選した。 これを嬉しく思わない人なんていないと舞い上がり自室で一人くるくる回って踊っていた。 こんなところ千早くん達に見られたら最大限にバカにされそう。 「えーっと、ライブの日付は一週間後か…何着ていこうかな~」 カバンからスマホを取り、真っ白なカレンダーを開いた。 どうせ予定もないし、絶対にライブには行けるが念のため今度の日曜日に予定を入れた。 余談だが、俺の連絡帳には家族のアドレスしかない。 友達だと言っても俺は千早くん達の連絡先も知らない。 潤のアドレスは前に入れたがもう電話する事もないだろうと思い消した…ずっと入れてると楽しかった日々を思い出し悲しい気持ちになるから… 友達欲しいと思った事は何度もあるが今の学校じゃ無理だと分かり諦めている…千早くんは絶対に俺を友達だと思ってないだろうから友達に入らない。 チケットを見つめる。 AIちゃんのコンサートだからAIちゃん好きが集まるんだよね…いや、グループだから他のメンバーが好きな人も勿論いるんだろうけど… 友達……出来るかな? 集まるのは俺と同じアイドルオタクが大半だと思うし… 余計楽しみになってきた! そして俺は大事な事を思い出した。 ……そうだ俺、極度の人見知りだった。 毎日千早くん達に虐められてるが日曜日になれば俺はハッピーな気持ちになるから我慢した。 そしてやって来た念願のコンサートの日!! 俺は勝負服なんて持ってないから母さんに服を選んでもらい、家を出た。 当たったのは普通のチケットで握手券付きじゃないから直接AIちゃんに会えないが、俺のような地味平凡は遠くから見るのがお似合いだろう。 電車を乗り継ぎ初めての場所に来た。 ここはオシャレな街としてテレビで報道されていていつか行ってみたいと思ってたんだ。 うわぁ、歩いてる人一人一人凄い…なんかオシャレー…俺が浮いてるのは確かだ。 前髪長いからかな?でも切る勇気はない。 スマホアプリの地図を頼りに会場に急ぐ。 そしてバスに乗りやっと会場に着いた。 やっぱり大人気アイドルグループだから人がいっぱいいる。 あっ、女の子もいる……やっぱり凄いな。 ナンパしてる人がいる…ライブを見に来たのではないのだろうか。 いろんな人がいてキョロキョロ見てると誰かとぶつかり尻餅をついた。 その衝撃でショルダーバッグに付けてたAIちゃんの写真が付いてるキーホルダーの紐が切れた…紐が脆くなってたのかな? とりあえずキーホルダーを探そうと地面にしゃがみ見る。 「…あっ、と…ごめんね?大丈夫?君、怪我はない?」 なんか声が聞こえるがそれより俺はAIちゃん(のキーホルダー)を探さなきゃ… 誰かに蹴られてどっかに行ったのかな? どうしよう…俺が初めて買った思い出のキーホルダーなのに… 「探し物はこれ?」 ぐすぐす泣きそうになっていたら俺の目の前にAIちゃんが見えた。 ……いや、これAIちゃんのキーホルダーだ。 手を出すとキーホルダーが手の中に戻ってきた。 嬉しさでまた泣きそうだった。 「近くで光ってるのが見えて、もしかして君が探してるのはこれかなと思って……当たった?」 「あっ、ありがとうございます!!」 「…っ」 拾ってくれた優しい人に満面の笑みを見せてお礼を言う。

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