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第3話
本当に嬉しかったからしょうがない。
そして俺は目を見開いた。
…うわっ、なんかめちゃくちゃイケメンオーラが溢れる人がいる。
サングラスしてるからよく分からないのにイケメンオーラが半端ないとは素顔はさぞ美しいのだろう。
お互いしばらく見つめ合っていて何分経ったか分からないが、先に俺はハッとなり元に戻った。
こんな地味な俺が関わっていい人じゃないよな、明らかに人生が違いすぎる。
オタクが多いと勝手に思い込んでた俺が恥ずかしい。
嬉しい気持ちが一気に萎んでいく。
「…ごめんなさい、俺」
「えっ!?いや、ぶつかったのはよそ見してた僕だし…君が謝る事ないよ」
え?…ぶつかった?
そういえば尻餅をついたな、いつもはぶつかられても素通りされるから謝ってくる人が珍しくて気付かなかった。
「いえいえ、俺もよそ見してて…ごめんなさいごめんなさい」
お互い謝り合戦をしていて周りから見たら変な光景だろう。
しばらくそうしていて、どちらが先だったが微笑み合っていた。
こんなにポカポカした気持ち初めてかもしれない、潤といた時はなかった不思議な感情だ。
「君はAIのファンなの?」
「はっ、はい!!」
そうだ、この勢いで友達なんかになれないかな?…やっぱり身の程をわきまえなきゃダメかな?
一人でぐるぐる考えているとお兄さんはニコッと笑った。
「僕もファンなんだ、ずっと昔から」
「俺もずっとファンなんですがなんかお兄さんとAIちゃん、お似合いですね」
「…え?」
お兄さんは驚いた顔をしてこちらを見ている。
あれ…なんか失礼な事言っちゃったかな?友達付き合いが分かんなくなった。
お兄さんはちょっと困った顔をしていた。
「…君は、その…AIに恋愛感情があるの?」
「えっ…いや、いやいや!!そんなおこがましいです!俺はその、優しくて可愛いAIちゃんに憧れというか…俺もあんな堂々と生きられたらなとか思って…」
自分でも何言ってるか分からないが、AIちゃんへの感情はただの憧れだ。
一般的な…
それを聞いたお兄さんはホッとしたような顔をしていた。
まさか本当にお兄さんはAIちゃんを…?
「人は見た目通りの性格なんてしてないよ」
「…え?」
「いや、そろそろ行こうか…」
お兄さんの言葉に気付いて慌ててコンサート会場の中に入る。
お兄さんとの会話に夢中でAIちゃんを忘れるなんてファンとして失格だ!
そしてコンサートが始まり可愛いフリフリの服で歌うAIちゃんを周りの声援達に圧倒されながら必死に応援する。
少し気になるのは左隣から物凄く視線を感じる事だ。
あれ?そこはさっきお兄さんがいたけどお兄さんはAIちゃんのコンサート見てる筈だがら不思議だ。
暗くて見えなかったから確認も出来なかった。
「やっぱテレビより生AIちゃん最高!」
「…うん、僕も最高の気分だよ」
俺とお兄さんの温度差が激しい感じでライブが終わり会場のグッズコーナーを見る。
俺は燃えるように気持ちが高ぶり、お兄さんは何故か静かに興奮しているようだった。
記念に会場の限定版でも買おうかな。
この時のためにお小遣いを地道に貯めたんだ。
目をキラキラさせて見ていると突然お兄さんが前髪を触ってきた。
驚いてお兄さんの方を見るとお兄さんも驚いた顔をしていた。
「あ…ごめんね、いきなりでビックリした?」
「……はい、かなり」
「いや、なんで前髪そんなに長いのかと思って…前見えづらくない?切らないの?」
前はちょっと見えづらいけど、不自由はしてない。
それに、直接人を見るのが怖くて前髪越しの方が落ち着く。
でも、今日会ったばかりでそんな事言ってもお兄さん困っちゃうよね。
なにか言わないと無視してると思ってお兄さん怒っちゃうかもしれない。
でも…いつものように言葉に出来ない。
………せっかく、こんな俺でも優しくしてくれたのに…
しばらく黙っていてまた泣きそうになったらお兄さんが俺の頭を優しく撫でた。
「ごめんね、言いたくないよね…無神経だった」
「ちがっ、お兄さんは悪く…」
ないと言おうとしたが遮るように人差し指を俺の唇に当てた。
その仕草があまりにも自然でボーッとお兄さんを見るとまた頭を撫でてくれた。
「そろそろ握手会じゃなかった?いこ」
「…あ、でも俺のチケット…握手券なしなんです、だから行けない」
「そうなんだ」
握手は無理でもせめて生サインは貰いたかったなと肩を落とすとお兄さんはグッズコーナーを見渡し目当てのものを見つけて買い物をしていた。
お兄さんはなにか買ったのかな?ちなみに俺はAIちゃんの会場限定版のうちわとTシャツ、勿論保存用だよ。
買い物を終えて買ったものを俺に見せてくれた。
それはサイン色紙だった。
「僕、これから行くから貰ってくるよ、君にプレゼント」
「いっ、いいんですか?」
「…うん、そのかわり…僕と友達になってくれる?」
友達……そんなの俺がお願いしたいぐらいだ。
俺は精一杯頷くとお兄さんニコッと笑い、握手会に向かった。
絶対あの学校じゃ知り合えない、とても優しくてカッコイイ友達が出来た。
夢かと思い頬をつねると普通に頬がヒリヒリした。
彼と出会った事で俺はなにか変われるだろうか。
とりあえず今はお兄さんが帰ってくるまでグッズコーナーの近くにあった休憩室の椅子に座り待つ。
今日は来て良かったと心から喜んだ。
…あれ?ところで俺、お兄さんの名前知らないや。
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