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第5話
「ごめんね、おまたせ」
「あっ、おかえりなさい!」
グッズコーナーにお兄さんが見えたから休憩室から出て合流する。
お兄さんが俺に色紙を渡してくれたから震える手で貰う。
こっ、これが本物のAIちゃんのサイン!!
今すぐ踊り出しそうな気持ちを押さえてショルダーバッグには入らないからグッズを買った買い物袋に大切に入れた。
そしてお兄さんの手を見つめた。
お兄さん、AIちゃんと握手したんだよね…いいな~いいな~。
真剣な眼差しで見つめる俺に気付いたお兄さんは俺の手を取り握手した。
「間接的だけど、伝わった?」
「あ、ありがとうございます!一生手を洗いません!!」
「…大袈裟だよ」
お兄さんは苦笑いしている。
あ、そうだ…お兄さんと友達になったから名前とか聞かないと今後呼ぶ時困るよね。
……今後、また会ってくれるかな?
「その、俺の名前は桜井 遥です!よろしくお願いします!」
「…遥、可愛い名前だね」
「うっ…ちょっと気にしてます」
名前と顔が一致しないといつも虐められてた記憶が蘇り苦笑いした。
俺も女の子みたいな名前は嫌だった…どうせなら強そうな名前が…あ、でもそれでも名前と合ってないか。
まぁ、両親がつけてくれた大切な名前だから諦めてるけど…
落ち込む俺にお兄さんは慌てた。
「ごっ、ごめんね…えっと…遥って呼んでいい?」
「はい、それと謝らなくても大丈夫ですよ」
お兄さん何だか今日は謝ってばかりで何だか可笑しくてクスクス笑うとお兄さんも照れたように笑った。
こういう友人関係を俺は潤と出来ていたのだろうか。
もしかしたらこれが本当の友達というのかもしれない。
「僕の名前は……コウって呼んでくれたら嬉しいな」
「コウ…さん、薬師寺煌くんと同じ名前ですね!」
「…っ!?」
素直な感想を言うとコウさんは驚いた顔をしていた。
?…どうかしたのだろうか。
もしかしてコウさん、あまりそう言われるのが嫌とか…かな?
はっ!!もしそうだったらとても失礼な事を言ってしまった。
コウさんに思いっきり頭を下げたら、コウさんは首を傾げていた。
「ごっ、ごめんなさい!全然薬師寺くんに似てません!お兄さんの方がカッコイイです!はい!」
「…何だかよく分からないけど、褒められてるんだと思っとくよ」
コウさんは苦笑いしていた。
機嫌直してくれたらいいけど、俺なんかの言葉で傷付けられたら申し訳なさすぎる。
コウさんは笑ってる顔の方がいいんだから…
それにテレビでしか見てない薬師寺くんよりコウさんの方が内面もプラスされて何倍も素敵なのは本当だ。
それからアドレス交換をして、久々に家族以外のアドレスを連絡帳に入れた。
「そういえば遥は何処の学校に通ってるの?学生…だよね?」
「あ、はい!和泉 学校っていう公立の学校です」
「あー、確かそんな名前聞いた事が…僕も同じ街に住んでるんだ、ちょっとその学校とは離れてるんだけど」
「そうなんですか!?」
まさかの偶然に目を輝かせる。
じゃあじゃあ、また遊んでくれるかな?
期待の眼差しで向けるとコウさんは笑った。
「僕は有栖 学園ってところに通ってるんだ、ちょっと遥の学校と離れてるから分からないかな?ちなみに二年生」
「……かっ、金持ち学園…」
有栖学園って言えば超セレブのご子息ご令嬢が通う金持ち学園だと街では有名だ。
なんか山奥にあって姿を見たものはいないと幻のように言われてた。
それに最近じゃ薬師寺くんも通ってるとテレビでやってたから日本で知らない人はあまりいないんじゃないかな?
俺じゃ、手も足も出ない…当たり前だけど…
和泉学校の生徒会もそこそこ金持ちだが、有栖学園は偏差値も高くて落ちた生徒が大半だ。
それに同じ歳だったなんて、てっきり大学生かと思った…コウさんは大人っぽいから…
憧れの眼差しでコウさんを見る。
…いや、コウくんがいいかな?
「同じ歳だからコウくんって呼んでもいい?」
「いいけど…え、ごめん…和泉学校って中学校かと思った」
コウくんは正直者だなぁ~まぁ、チビだからね…俺…
俺と人生が180度違うコウくんと友達に、俺の人生になにか変化があるといいな。
俺のこの性格も直れば…いいな。
コウくんと駅まで世間話をして帰ったら電話すると約束して別れた。
スキップしたい気分でいつもの街並みを歩く。
もうすっかり空はオレンジ色をしていた。
浮かれすぎてていつもならすぐに避難するのに、俺は前を見ていなかった。
ドンッと肩に衝撃が走り、思いっきり地面に倒れた。
電柱にでもぶつかったのかとヒリヒリする顔を押さえてぶつかったものを見ようと振り返ろうとした。
しかしその前に誰かに胸元を掴まれて引き寄せられた。
俺の目の前に強面のドアップ。
「……てめぇ、何処見て歩いてんだ!あぁ?」
「ひっ、ひぃぃぃ~!!!」
どうやら俺は最悪な事に不良にぶつかったようだ。
どうしようどうしよう、俺…今日グッズ買ったからお金がないよ!!
千早くん達のおかげ?で殴られるのは慣れてるから殴られるしかない!
「おい、治療費払えよ!!ぶん殴るぞ!!」
怖くて震えながら目を瞑って殴られるのを覚悟していたら別の声が聞こえた。
「なぁ、コイツオタクじゃね?キモいもん持ってるんだけど」
「!?」
すぐに目を見開いて不良達を見たら胸ぐらを掴む男のツレらしき男がグッズが入った紙袋を持ち上げていた。
ぶつかった時に落としたんだ!
胸ぐらを掴む男はそれを見てニヤニヤしていた。
ヤバい…それは俺の大切な…
「おっ、サイン色紙なんかもあるぞ」
「マジで?高く売れんじゃね?」
「かっ、返して!!」
コウくんが俺のために貰ってくれたサインだ、取られるわけにはいかない。
必死に暴れると拳が運よく男の頬に当たったが鍛えてない拳が痛い筈はなくへなちょこパンチで全然意味はなかった。
しかもそれで男は逆上して俺の頬を思いっきり殴ってきて何処かの店のゴミ箱に突き飛ばされた。
頬がじんじんする、やっぱり千早くん達と違う容赦ないパンチで涙目になる。
チャリンと何かが落ちる音がしたが確認する前に男の蹴りが腹部を踏みつけ一瞬息が止まった。
こんなボロボロになって母さんにどう説明すればいいんだと考えていたら、もう一度胸ぐらを掴まれた。
心の底から不良なんて大嫌いだと思いながら歯を食いしばった。
「…うるせぇ、邪魔」
また誰かの声がしてもしかして三人目の仲間かと絶望的になっていたら、胸ぐらを掴む男が明らかに苛立った顔をして振り返る。
知り合いじゃないのかな?でも、俺の紙袋を持ってる男は何故か顔面蒼白だった…胸ぐらを掴んでる男は頭に血が上り気付いてないみたいだが…
俺を地面に投げ捨てて声がした方を見る。
俺も痛む身体を押さえて声の主の方を見た。
そして驚いた。
とてもカッコイイ男の人が壁に寄りかかっていた。
なんというか、コウくんが優しく爽やかさと対照的でクールな感じに見えた。
しかし自分で喧嘩を売ったのにまるでやる気なく欠伸までしている。
それにさらに苛立った男はクールな少年に拳を振り上げた。
見ていられず目を瞑った。
「なめてんじゃね…」
なんか男の声が不自然に途切れてパシッと音はしたが殴られた音には聞こえず、不思議に思いゆっくりと目を開ける。
クールな少年が男の拳を片手で受け止めていた。
しかも余裕そうに男の方をチラ見すらせずスマホを弄っていた。
……なんか、凄いな。
男はクールな少年から離れようとするが手が離れず、なんかミシミシと音が聞こえそうなほど強く握ってるっぽい…男の顔がみるみる青白くなっていってるのが証拠だ。
「痛っ…痛い痛い痛い!!離せよ!骨折れんだろっ!!」
「あ?…うるさい、今メール中だからちょっと黙れ」
「お前マジでふざけんなよ!!」
男はさっきまでの強面を崩し泣き出しそうだった。
なんかさすがに可哀想になってきたけど…俺に止められる自信が一ミリもない。
紙袋を持ってる男は俺の紙袋を投げて手を掴まれてる男を助けようと引っ張っている。
……それ、多分余計痛いんじゃ…
「おい、コイツ例の南高 の魔王なんじゃ…」
「おまっ、そういう事は先に言え!!殺される!!」
なんか小声で話していてよく分からないが手を掴まれてる男は叫んでるから聞こえた。
やがてメールが終わったのかスマホをポケットに入れてずっと掴んでた男と引っ張っていた男を回し蹴りして吹き飛ばした。
人ってあんなに飛ぶんだとちょっと感心した。
俺は紙袋を取り戻し、ホッとした。
そしてクールな少年の方を見ると、もう用がないのかさっさと行こうとしたから、相手にその気がなくても結果的に助かったからお礼を言おうと思った。
「あっ、あの…ありがとうございました!」
「…別にお前を助けたわけじゃない、道端に落ちてたゴミを掃除しただけだ」
クールな少年は振り返らずそう言った。
助けてくれたし、カッコイイがやはり不良が怖くて見えてるか分からないがペコペコと頭を下げて走り去った。
なんか大事な注意事項忘れてる気がする、気のせいかな?
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