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第7話

家に帰り自室に入り荷物を置いてる時にショルダーバッグのチャックが開いてる事に気付いた。 なにか忘れ物があるか中身を床に全てぶちまけて探し落胆した。 「…AIちゃんの、キーホルダー…」 グスグスと泣きべそをかきながら窓を見た。 もう外は暗くて探しに行けない。 明日は早く起きて学校行く前に探しに行こう。 AIちゃんのキーホルダー、捨てられてなければいいけど… 落ち込んでいるとスマホが震えた。 そういえばコンサートに行くからバイブにしてたんだっけ。 スマホを見るとコウくんからの着信だった。 そうだった、帰る時に電話するって言ってたっけ? スライドして電話に出た。 「もしもしコウくん?」 『遥っ!!大丈夫!?』 コウくんがなんか焦ったような声で電話に出た。 どうかしたんだろうか? よく分からず電話越しだが首を傾げた。 「どうしたの?なんかあったの?」 『あっ、いや…電話しても遥出ないから…心配で』 「ごめんね、ちょっとバタバタしてて」 コウくんに心配掛けちゃった、これで不良に絡まれたなんて言ったらさらに心配掛けちゃうから黙っとこう。 奪い返せたコウくんに貰ったサイン色紙を勉強机の一番目立つところに置きコウくんと主にライブの感想だけど、楽しい会話をして一階から母さんが夕飯に呼ぶ声がして電話を終了した。 コウくんの話によると来週の日曜日にAIちゃん単独のコンサートが開かれると聞き一緒に行く約束をした。 来週だからチケットの心配していたらコウくんが取ってくれると言ってくれて本当に優しいな~と思い、来週だけど間に合うかな?という不安もあったがなんかコウくんならイケそうだと思った。 コウくんは俺にチケットプレゼントしたいみたいだが、さすがに悪いから会った時に払う事にした…丁度もうすぐお小遣いを貰える日だから… 日曜日が楽しみだなとまた予定を入れようとスマホの画面を開き、電話マークの着信履歴の方に目が行った。 着信履歴は115件と表示されていた。 家族は滅多に電話しないし、家族以外に電話してくるのは一人しかいない。 …あれ、でも俺…コウくんと別れてから家に着くまで二時間ぐらいしか経ってないよ? 夕飯の時に母さんに顔の痣とかをしつこく聞かれたが、必死に電柱にぶつかっただけと言い訳した。 余計に疑われてた気もするが、こう言うしかなかった。 まだ疑う母さんに罪悪感を抱えたまま部屋に戻った。 明日は朝一で探しに行きたいから早めに寝た。 そして翌朝、30分くらい余裕を持ちあの無くした場所に来た。 まずは来た道を探し、倒れたゴミ箱周辺を中心に探し回った。 しかし小さなキーホルダーは見つからず時間が来てしまい、残りは放課後また来ようと思った。 新しいキーホルダーを買えばいいと普通の人は思うだろうが、あのキーホルダーは俺の思い出なんだ…代わりなんてない。 トボトボと学校に向かって歩いた。 嫌な事は、重なるように出来てるのだろう。 「ほら食えよ!せっかくシェフが作ったんだぞ!!」 「うっ…ぐ…」 キーホルダー探しに夢中で昼飯のパンを買うのを忘れていて、購買で早く買いに行こうと立ち上がったらタイミング悪く千早くん達がやって来て食堂に連れてかれた。 いつもは早く食べるからお腹が減ってるが生ゴミを食うほどではない。 しかしそんな事はお構いなしで千早くんが生ゴミが入ったバケツを床にぶちまけて俺を押し倒しグリグリと床に顔を押し付けられた。 臭くて泣きそうになりながら必死に耐えた。 周りから笑い声がした。 食事していた人は生ゴミを床にぶちまけたから逃げるように去っていった。 こんな事してシェフとかが怒るかといえばそうではなく、というかこの学校の事情に首を突っ込んではいけないらしく見て見ぬフリをしていた。 悪魔のような昼休みも終わり、俺は生ゴミで汚れたからジャージのまま半分の授業を受けた。 それを担任に怒られたが、この担任も千早くんに惚れてると噂があり訴えても無駄だから謝るしかなかった…前はいい先生だったんだけどな。 そして放課後になり、俺は早く帰ろうとすると誰かに足を引っ掛けられて派手に転んだ。 周りからまた笑い声が聞こえた。 もう聞きたくなくて耳を塞ぎ学校を出た。 コウくんと友達になったんだから自分の意思で変わらなきゃいけない…この生活に慣れちゃいけないんだと思った。 コウくんはあんなにキラキラしてるんだから、ちゃんと友達として隣で歩けるように…努力しなきゃと思った。 そしてまたキーホルダー探しにやって来てよく見るために這いつくばると周りの視線が痛くなった。 ……早く見つけて帰りたい。 地面ばっかり見てたから前に人がいる事に気付かず頭をぶつけた。 謝ろうと前を見て固まった。 「……」 「あ…」 それは昨日会ったクールな少年だった。 俺をジッと無表情で見つめている。 何だか怖くなり立ち上がる。 「あ、の…俺…探し物してて…ごめんなさい!!」 「探し物?…………これ?」 クールな少年はポケットから何かを探して俺の前に持ってくる。 それは今まさに俺が探していたAIちゃんのキーホルダーだった。 俺が両手を出すと手のひらにキーホルダーを落としてくれて大切に包み込んだ。 「あ、ありがとうございますっ!!」 「……………泣くほどの事か?」 「…へ?」 自分でも気付かなかったが言われて頬に触れると濡れていた。 …キーホルダーが戻ってきた安心と昼休みの時の悔しい気持ちが一気に溢れてきてポロポロと涙が出る。 クールな少年はしばらくジッと見ていて俺の髪型をいきなり上げたから泣きながらキョトンとクールな少年を見る。 「……ど、どうかしたんですか?」 「泣き顔…いいな」 無表情のまま言われて何の事だと戸惑ってるとクールな少年が顔を近付けてきたと思ったらペロッと頬に生暖かい感触がした。 「……しょっぱい」 「なっ、なんで舐めっ!?」 驚いて後ずさると地面に転けた。 そしてキーホルダーがまたなくなんないように確認した。 クールな少年が俺を助け起こそうと手を差し伸ばしたところで、空気が読めない俺の腹は豪快な音を立てて恥ずかしさで頬を舐められた事をすっかり忘れた。 ……そうだ、昼飯食べてないんだった。 「…あっちの蕎麦屋なら奢る」 「申し訳ございません…」 クールな少年はずっと無表情だったがちょっと頬が緩んでいてなんか貴重なものを見た気がした。 奢ってもらうのは悪いと思ったが「キーホルダーをすぐに渡さなかった詫びだから素直に受け取れ」と言われ、お言葉に甘える事にした。 クールな少年は蕎麦が好きなのかな?普通ならファストフードに行くんじゃないのかな? 「よく此処に来るんですか?」 「…たまに、和食しか食わないからな…俺は」 へぇ、じゃあファストフードに行った事ないのか…俺もあまり食べないけど…学校の生徒も結構いるし… 注文を終えるとクールな少年がジッと俺を見ていた…どうかしたのだろうか。 「お前、その女が好きなのか?」 「女?AIちゃんの事ですか?はい!ファンなんです…ごめんなさい、気持ち悪くて」 クールな少年との接点がAIちゃんしか分からずそう言ってクールな少年は「ふーん」と興味なさそうに言われ、水を飲んでいた。 「……俺も」 「えっ!?AIちゃんファンですか!?」 思わず身を乗り出した。 クールな少年は若干引き気味だったが、俺はついてる。 まだ神様に見放されてなかったんだ!AIちゃんファンが此処にもいたなんて… クールな少年が(なんでこんな嘘ついたんだ?)と思ってる事は俺は知らない。 不良でビクビクしてたがAIちゃんファンに悪い人はいないと考えを変えてクールな少年の手を取った。 それにクールな少年は驚いている。 「是非、俺とお友達になっていただけますか?」 「……友達」 呆然とクールな少年は手元と俺を交互に見て頷いた。 「…ダチとか作った事ねぇけど、それで良ければ」 「おっ、俺も初心者のようなもので似た者同士ですね!よろしくお願いします!」 ブンブン手を振りクールな少年は苦笑いしてたから触られるのが嫌なのかなと思い手を離そうとしたら今度は逆にクールな少年に手を掴まれた。 昨日の男達にしたのは夢かと思うほど優しかった。 「俺、桜井遥です…遥って呼んでくれたら嬉しいです!」 「仙堂柚月(せんどう ゆづき)だ、俺も柚月でいい…南高一年」 一年っ!?まさかの年下で驚いていた。 それに南高って魔王がいるんじゃないんだっけ…柚月くん強いけどやっぱり魔王に勝てなさそうだから絡まれないか心配だ。 「柚月くん気を付けてね、俺は和泉学校二年生だよ」 「……?あぁ…和泉学校って高校じゃなかったか?…中学生じゃないのか」 柚月くんは俺の忠告によく分かってなくて首を傾げながら素直な感想を言った。 あれ……前にも同じような事言われたような… 第一劇、完。

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