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第13話

あれからコウくんと会って話そうと思ったが、コウくんは忙しいらしくて用事があって会えなかった。 そして日曜日、事前に約束してたAIちゃんのライブにやって来た。 久々のコウくんは俺の不安を打ち消すように普通だった。 「…コウくん」 「行こっか、AIのコンサート」 「うん…」 普通だけど、なんか違和感があった。 …それがなんなのかは分からないけど… 正直、大好きなAIちゃんのコンサートでせっかくコウくんがチケット取ってくれたのに、隣にいるコウくんが気になりあまり集中出来なかった。 コウくんはなにか考えるように下を向いていた。 ……なにか言った方がいいのだろうが、今は他の観客の声援で俺の声は届かない。 コンサートが終わり、やっと話が出来る広場までやって来て俺はコウくんに向き合った。 コウくんは驚いた顔で俺を見ていた。 「…遥?」 「コウくん、あのね…」 「あー!!こんなところにいたー!!」 俺がなにか言う前に誰かの声で掻き消された。 周りの人達はざわざわと騒いでいたが、なんだろうか。 まぁ俺達には関係ないだろうと再び口を開いたら声の主らしき人物がコウくんに飛びついてきた。 驚いた俺は固まって上手く声が出なかった。 周りの人達は声の主が何者か遠目で分からなかったからか早々に興味をなくした。 でも目の前にいる俺は気付いた。 眼鏡を掛けてて帽子でちょっと地味だが金髪が浮いている………俺の大好きなAIちゃんだ。 AIちゃんファンの俺がAIちゃんを見間違う筈はない。 ……でも、なんでAIちゃんが?しかもコウくんに親しそうに腕を絡めている。 ズキッと心が痛くなった。 AIちゃんはコウくんみたいなのがタイプだと思ったのか、友達が取られると思ったのかは分からない。 とりあえず、コウくんは嫌がってないという事は分かった…ちょっと呆れてるみたいだけど… AIちゃんはコウくんの黒髪を触っててまるで恋人みたいになっている。 「…うーん、これウィッグ?金髪の方が似合うよー」 「はぁ…何しに来たんだ藍、まだ仕事があるだろ」 「チケットを無理して用意したんだから約束、守ってよね」 チケット?約束?…そっか、コウくんはAIちゃんにお願いしてチケットを用意してもらったんだ。 ……やっぱり、恋人…なのかな。 コウくんは自分の腕にしがみつくAIちゃんを離して俺の方を向いた。 「ごめんね遥、話って何かな?」 「…っ」 「…………え」 「ぁ…ごめんなさい」 コウくんが俺に手を差し伸ばしてきたから俺はつい後ずさった。 多分、コウくんは意味はなかったと思う。 でも…一瞬俺の目には潤と被って見えた。 恋をした友達がどうなるか……俺は、知っている。 コウくんは違うと思いたいが、何が違うのかよく分からずぐるぐる考えてしまう。 ……潤も、最初は優しかったから… コウくんは目を見開いて呆然としていた。 行き場のない手はだらんと下された。 コウくんが怖い…また、俺は友達に捨てられちゃう。 そう思うとポロポロと頬に生暖かい雫が流れる。 ……俺は、また… 「ごめっ、ごめんなさいっ!!」 「遥っ…」 コウくんがどんな顔をしてるのか見れず、その場から逃げ出した。 潤みたいな冷たい瞳をしているように感じて怖くなった。 ただの妄想かもしれないし、現実かもしれない。 今はそれを知る事は出来なかった。 俺の中でここまで潤がトラウマになってるなんて気付かなかった。 初めての友達……だったからかな。 いつもの街並みに帰ってきてから我に返り、コウくんに謝ろうとスマホの電源を入れるが…もしかしたら二人の邪魔をしちゃうかもしれないと思い、なかなか電話が出来なかった。 どうしようかとずっとスマホと睨めっこしていると、いきなり着信を知らせるようにスマホが震えた。 驚いて心臓がばくばくしている。 てっきりコウくんからの電話かと思ったが… 「…柚月くんからだ」 一人じゃ何も解決出来ない俺だから、柚月くんに相談してみようと思った。 柚月くんならコウくんを知ってるし… 電話に出ると柚月くんの安心する低音ボイスが聞こえた。 『…遥、もう用事終わった?』 「うん…うん…」 『…?アイツもいるのか?』 「……コウくんはいないよ、なんか俺一人じゃ…よく分からなくなって」 『今何処だ?』 柚月くんは優しく聞いてくれて、俺はいつかのカフェの前にいた事に今更気付いた。 そこで柚月くんと待ち合わせする事になった。 「…遥っ、待たせた」 「いっ、いやまだ5分しか経ってないよ!」 カフェテラスに座ってると柚月くんがやって来た。 走って来たのか、息を荒げていた。 近くにいたのか分からないけど、相談したいのは俺だからそんな慌てなくてもいいのに… 走ったからか汗も掻いていたから持ってたハンカチで汗を拭いて、水の入ったコップを柚月くんに渡して座らせた。 柚月くんはジッと俺を見ていた。 …?どうしたのかな? 「……いいにおい」 「あ、ハンカチ?洗剤のニオイかな?洗ったばっかだから」 「…遥の」 (…遥の、汗のにおい) 最後は小声で柚月くんが何を言ってたのか分からなかった。 とりあえず落ち着いて、柚月くんが口を開いた。 「…遥、今日はどうした?」 単刀直入に聞かれつい口ごもり、何から話そうか考える。 「えっと、今日…コウくんとコンサートに行ったんだ」 「……」 最初から順番に話そうとしたらいきなり柚月くんが不機嫌そうな顔をする。 あれ、柚月くんもコンサートの事知ってる筈なんだけどな… 仲間外れされたと思ったのだろうか。 「こ、今度は柚月くんも一緒に行こう!」 「……遥と二人で」 「え?うん…」 コウくんと三人で行けばもっと楽しいと思うのにと思ったが、柚月くんがなにかこだわりがあるのか黙っといた。 それに、コウくんは友達より恋人の方が大事だろうから来ないよね。 柚月くんは不機嫌さがなくなったが、俺はまた落ち込んでいた。 そして柚月くんにコウくんとAIちゃんの事を全て隠さず話した。 ……さすがにまだ勇気がなくて潤を重ねた事は言わず、友達より恋人を大事にするのが普通だと言った。 柚月くんは話し終わった俺の頭を撫でた。 「えっ!?わっ、なに?」 「……悲しまなくていい、遥には俺がいる」 「柚月くん……」 こんなダメな俺なのに柚月くんはずっと友達でいてくれるの? でも、柚月くんも恋人が出来たら… 「俺は、なにがあってもお前への態度は変わらない…だってお前の事昔から…」 「…え?」 柚月くんが何を言いかけたのか、また第三者に邪魔されて聞けなかった。 ……でも、今度は男の子が乱入してきた。 柚月くんに抱きついている。 「兄貴ー!!なんで置いてくんスか!!一緒にごはん食べましょって約束したじゃねぇっスか!!!!」 「……してねぇし重いし兄貴って呼ぶな」 柚月くんは抱きついてきた少年の胸ぐらを掴み立ち上がりカフェテラスから外に放り投げた。 …段差が高いから痛そうだなぁ~ コンクリートに激突した少年が心配で駆け寄ると頭を抱えて物凄く痛がってた。 「ひでぇっスよ兄貴~」 「…うるさい、遥…場所変えよう」 柚月くんが少年に見向きもせず俺の方に向かい手を握る。 この人、兄貴って言ってたから柚月くんの弟くんだよね…ほっといちゃダメだよね。 「柚月くん、弟くんの手当てしなきゃ…」 「……弟じゃない、赤の他人だ」 「へ…?」 「俺と兄貴は兄弟同然のなかじゃねぇっスか!!」 弟(?)くんは騒いでいて柚月くんが鬱陶しそうに見ていた。 柚月くんを兄貴って呼んでるのに赤の他人?なんかよく分からなくなってきた。 そういえば柚月くんの家族の話って聞いた事ないな… 急に気になってしまい、柚月くんを見ると首を傾げていた。 「遥、どうした?」 「俺、柚月くんの事知りたい」 「何でも話す」 勇気を出して柚月くんに言うと即答してくれた。 良かった、知りたいとか引かれるかと思った。 じゃあまず一番気になる兄弟の事を聞こうかな。 「柚月くん、兄弟はいる?俺は一人っ子だからちょっと寂しいんだ」 「…いる、兄が一人…でも10も歳が離れてるからあまり兄弟って感じがしないけど」 「そうなんだー、いつか会いたいな~」 「…あ、あぁ…いつか…な」 柚月くんが言いづらそうに目を逸らした。 そうだよね、友達がこんな根暗だって言いたくないよね。 お互い重い空気を出していたら、すっかり忘れてた少年が俺と柚月くんを交互に見ていた。 「兄貴、気になってたんスけど…コイツ誰っスか?兄貴の舎弟?」 「…は?」 「しゃ、てい…?」 少年は聞いた事がない言葉を言っていた。 柚月くんは不機嫌そうな顔になり、少年の頭を踏みグリグリしていた。 ゆっ、柚月くん…下がコンクリートだから痛いと思うよ!? しゃていって何だろう、もしかして友達の別名なのかな? じゃあ俺は柚月くんの… 「お前、遥に変な事教えてんじゃね…」 「うん!柚月くんのしゃていだよ!!」 新しい言葉を覚えた子供のようにはしゃぐと二人は固まった。 柚月くんはなにか言いたげな顔をしていたが、その前に俺の前に少年が現れた。 「そっかそっか!やっぱ舎弟っスか!じゃあ俺の弟分っスね!俺の名前は山田冬哉っス!!兄貴と同じ一年っス!」 「そうなんだー!兄貴って呼んでるからてっきり年下かと…俺は桜井遥です!よろしくね冬哉くん、和泉学校二年だよ」 「…中学生じゃないんスか……ってか弟分だから敬語で話してほしいっス!…いでぇっ!!兄貴、ひでぇ…」 中学生って…冬哉くんも俺と同じくらい小さいと思うよ。 いきなり冬哉くんに怒られたと思ったら柚月くんに顔面を殴られていた。 痛がりながら柚月くんに訴えていた。 「…調子に乗るな、遥もコイツなんて記憶から忘れていい」 「……」 「…遥?」 俺は考えていた。 もしかしたら、これが俺の悩んでいた答えなのかもしれない。 俺は、柚月くんを知りたいと感じたのに…コウくんを知ろうとしなかった。 勝手に決めつけて、コウくんを傷付けてしまったかもしれない。 ……俺は、コウくんを知りたいと思った。 それを気付かせてくれたのは柚月くんだ。 …やっぱり、友達っていいな。 「ありがとう柚月くん、もう平気だよ」 柚月くんは一瞬分からず首を傾げていたが、数秒して理解した。 「…もういいのか?」 「うん、俺…勝手に思い込む前に聞いてみる事にした、そしたらコウくんにもう少し近付ける気がするから…柚月くんが教えてくれたんだよ、ありがとう!」 ちょっと成長した気がして嬉しくなった。 柚月くんは眉間に皺を寄せて不機嫌な顔をした。 え?え?なんで?自己解決しちゃったから怒ったのかな? 戸惑う俺を見ようともせず舌打ちして背を向けてしまった。 「…ゆ、づきくん?」 「良かったな…」 全然本心に聞こえないのはなんでだろう。 そしてそのまま何処かに行ってしまった。 冬哉くんは痛がりながら柚月くんに向かって追いかけていった。 誰かと仲直りしようとすると、誰かに嫌われてしまう。 ……俺はどうしたらいいのだろうか。 また一つ、大きな問題に悩まされる事になった。 スマホを見ると、着歴も何もない…やっぱり怒ってるのかな? いやいや、今さっき聞くって決意したんだからこんなところで揺らいだら一歩も進まないじゃないか! 思い切って電話を掛けてみた。 『………はい、もしもし』 「…っ!?」 数コールが長く感じて緊張すると誰かが電話に出た。 …その声は望んでいた人物ではなかった。

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