2 / 195

第一章・2

「新庄くん。幸樹くんは大切な預かりものなんだ。妙なこと、吹き込まないで」 「すみません!」  遠山は、幸樹が中学生の時に亡くなった母から、彼を託された。  母子二人の家庭で育った幸樹は、幼いころからよくこのカフェに連れられて来たものだ。  その母は、幸樹の父をいつもこう言っていた。 『お父さんは、人の上に立つお仕事をする、立派な方よ』  その言葉からすると、どうやら父は生きているらしい。  経済的に困っているわけではないので、生活費は父が用立ててくれているのだろう。  そんな父に、幸樹は常日頃から会ってみたいと考えていた。 『どんなお父さんなんだろう。マスターの遠山さんみたいに、優しい人だといいな』  だが母は、一度も幸樹を父に会わせることなく、亡くなった。  独りぼっちになってしまった幸樹を引き取ってくれたのが、遠山だった。  母の遺言、ということで、幸樹は遠山のカフェにお世話になることになったのだ。

ともだちにシェアしよう!