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第三章・4

 今まで付き合った人間の中には、ヤクザの情夫になることをステータスに感じる者もいた。  玄馬に腕を絡め、街を颯爽と歩く。  そんな自分を、カッコいいと勘違いする人間がいた。 (しかし、この幸樹ときたら) 『私は、極道者だ。九丈組の、頭だ。それでも、私は素敵かな?』 『そういう肩書を忘れてしまう何かを、九条さんは持っています。強く、惹かれます』  九条会の組長でない、ただの九条 玄馬を好きになってくれたのか。 (いや、深入りはダメだ)  もともと、あのカフェを楽に手に入れるために近づいた。  それだけのはずだ。  だがしかし。 「幸樹、シャワーを浴びてくるといい」 「はい、玄馬さん」  グラスを受け取りながら、玄馬は愕然とした。 (私は彼を、『幸樹』と呼んだのか?)  そして幸樹は私を、『玄馬さん』と呼ぶ。 「まずいぞ、これは」  すでに深入りに片足突っ込んでしまっている予感を、玄馬は味わった。

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