27 / 195
第三章・9
「お茶にしては、少し遅かったんじゃないのかな?」
すがるような遠山の視線に、幸樹はようやく思い当たった。
だが、彼をこれ以上心配させたくはない。
(玄馬さんとエッチしちゃったことは、言わないほうが良さそう)
「たくさん、お話ししましたから。九条さんに、励ましてもらいました」
「励ます? 極道者が?」
『僕、一度でいいからお会いしたいんですけど』
『何か、理由があるんだろう。生きてさえいれば、いつか会えるよ』
会ったことのない父に、いつか会えると言ってもらえた。
「職業はヤクザさんかもしれません。でも九条さんは、優しい人です」
「幸樹くん。ヤクザはね、優しい甘い言葉で、被害者をだますんだよ?」
「被害者だなんて。僕、何にもひどいことされてません」
「今からのことを考えて、だ。もう、彼には会うんじゃない」
返事が、無い。
いつもいい返事をよこす幸樹が、唇を結んで答えない。
「幸樹くん……」
しとしとと降る外の雨は、遠山の心を不安に浸していた。
ともだちにシェアしよう!