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第四章・2
「辛気臭いですね。ぱあっと行きましょう」
そんな軽口とともに、カフェに入ってきた客は。
「お前は、昨日のヤクザ!」
「遠山さん、九丈さんです!」
幸樹の顔は、ぱあっと晴れた。
そして、少しだけ目をそらした。
昨夜のことを思い出すと、恥ずかしい。
しかし玄馬は素知らぬ顔で、幸樹に後ろ手に隠していた贈り物を差し出した。
「これを、幸樹くんに。店に飾ってくれ」
「ありがとうございます!」
黒づくめの玄馬が幸樹に贈ったのは、純白のバラの花束だった。
バラのブーケを胸に抱いて、幸樹は嬉しそうだったが、遠山は警戒した。
「幸樹くん、それは受け取らないほうがいい。後で高額の請求書が届くかもしれない」
遠山の嫌味も聞き流し、玄馬は昨日と同じ席に掛けた。
「キリマンジャロ、一つ」
「何だって?」
「私は客ですよ。美味しいコーヒーを飲みに来た」
しかし、玄馬が言い終わらないうちに新庄が情けない声を上げた。
「マスター。また、昨日の怖そうな人たちが外にいます!」
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