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第四章・5

「早くカウンターに戻らないと、マスターが心配するよ」 「あ、はい」 「バラの花ことば、調べてみてくれ」 「わ、解りました」  会話は、それだけ。  ただ、そのやり取りを、遠山はさとく聞きつけていた。 (バラの花ことば、か)  きざな奴だ、と鼻で笑ったが、特別な意味が込められているのだろうか。 「バラは色だけでなく、本数にも意味があるそうですよ」 「新庄くん、君はまた勤務中にスマホをいじる」  しかし、その新庄の悪癖は、遠山の目を見開かせた。 「幸樹くん、そのバラ何本ある!?」 「はい? えっと……、12本です」 『12本のバラの花ことばは、「私と付き合ってください」です』 「白いバラの花ことばのひとつは、『相思相愛になりたい』ですから、あのヤクザさん思いっきり告ってますよ!」 「幸樹くん、あのヤクザと……。やっぱり……」  遠山は、その場にへたり込んでしまった。

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