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第五章・3
『どうしたら、幸樹くんを私に任せてくれるんだろう』
玄馬の独り言に、同席していた幹部の松崎(まつざき)がぼそりと言った。
「若(わか)、二兎を追う者は一兎をも得ず、ですよ」
は、と玄馬は松崎の顔を見た。
「このカフェに繰り出しているのは、あくまで立ち退かせるため。お忘れなく」
「忘れちゃいないさ」
そう。
忘れては、いない。
ただそこに、幸樹がいた。
二人は、出会ってしまったのだ。
「手っ取り早く、トラックで突っ込みますか?」
店を滅茶苦茶に破壊してしまえば、営業をあきらめざるを得ない。
しかし、それには首を横に振る玄馬だ。
「あのマスターなら、プレハブ建ててでも営業を続けるさ」
一本気な、頑固者。
玄馬は、遠山をそう見ていた。
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