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第五章・8
席を立つ前に、玄馬は幸樹に問いかけた。
「午後はどうする? 講義がなければ、ドライブにでも」
「3限目は開いてるんですが、4限目があるんです。3時までには、戻らないと」
そうか、と玄馬は考えた。
のんびりとドライブを楽しむ時間は、無い。
ならば……。
「幸樹。図書館を案内してくれないか?」
「いいですよ。図書館デート、ですね」
浮き浮きと楽しそうな幸樹は、健全な思考に満ちている。
だが一方の玄馬は、いけないことを考えていた。
図書館へ来たはいいが、あたりを見渡すと隅の収蔵庫へ幸樹を連れ込んでしまったのだ。
「玄馬さん、勝手に入ると叱られますよ。ここは、関係者以外立ち入り禁止です」
「そこで、関係しようじゃないか」
え、と疑問を抱いたとたん、幸樹は玄馬に抱きしめられた。
「幸樹。君が欲しい」
「げ、玄馬さん?」
まさか。
「まさか、ここで……!?」
「その、まさか、さ」
玄馬の唇が、ゆっくりと幸樹のそれに重なった。
静かな図書館の、さらに静かな収蔵庫に、濡れた音が密かに響き始めた。
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