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第八章 玄馬さんは、玄馬さん。
「今日は、どの色にしようか」
玄馬はマンションで、デートに着ていく服を上機嫌で選んでいた。
むろん、相手は幸樹だ。
鉄黒、墨色、ランプブラック。
どれも同じように見える黒を、玄馬はあれでもないこれでもないと悩んでいた。
ようやく決めた紫黒色のスーツを身に着けていると、スマホが鳴った。
「誰だ。こんな忙しいときに」
電話をかけてきたのは、組幹部の松崎だった。
『若、今からホテル・ニュー大蔵へ出られますか?』
「ん? ちょうど、そこへ行こうと思っていたところだ」
『それは好都合です。会っていただきたい人がおります』
「別日にできないか? 忙しいんだ」
『いえ、九丈組の未来に関わることですので、ぜひに』
大げさな、とは感じたが、他ならぬ松崎の意見だ。
玄馬は、幸樹との待ち合わせ時刻の前に、その人とやらに会うことにした。
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