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第八章・4
コーヒーを一口飲み、玄馬は心を落ち着かせた。
そして、翔ではなく黒岩の方を見て静かに問うた。
「これは、泉田組長の意向でもある、ということですか?」
「いいえ。親父さんは、ご存じありません」
では、なぜ。
そこで翔が、やや身を乗り出した。
「大きな声では言えませんが、父は病を抱えています」
「泉田組長が」
「かなり進行しており、このままでは危ない、とさえ」
「それは……」
存じ上げなかったこととはいえ、失礼いたしました。
そう、玄馬は翔に頭を下げた。
「しかし。泉田さんには、長男もいらしたのでは?」
縁起でもないが、泉田にもしものことがあっても、跡継ぎに問題はないのではないだろうか。
それには、翔は眉根を寄せた。
「身内の恥をさらして申し訳ないのですが、長男は少々頼りがいがなく」
遊び人の長男に組を任せると、心配だ、と言う。
「そこで、九丈組さんの後ろ盾が欲しいのです。私があなたの籍に入り血縁になれば、泉田組は安泰です」
必死なまなざしの、翔だった。
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